著者
ムルング デオグラティアス 椎葉 充晴 市川 温
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.15, no.6, pp.555-568, 2002
被引用文献数
3

降雨遮断に対する三種類のモデル(Deardorffのべき関数式を用いたRutterのモデル,Deardorffのモデル,修正近藤モデル)に気象外力を与えて一年間のシミュレーションを行い,その結果を比較した.それぞれの降雨遮断のモデルには,ペンマンーモンティース式を組み合わせた.修正近藤モデルは,水収支を構成する種々の要素を考慮したものであり,降雨イベント間の蒸発散機構も取り入れられている.この蒸発散の計算には,Deardorffのべき関数式,キャノピーでの貯留量の変化,キャノピーからの流出が考慮されている.ペンマンーモンティース式は蒸発散量を決定するうえで核となる部分である.この式は日本あるいは試験流域で広く適用されており,本研究においても,降雨遮断モデルの比較の基礎として用いることにした.本研究では有効降雨に着目していることから,水収支のコントロールボリュームはキャノピーの上端から地表面までの間としており,水収支の計算には土壌水分量や蒸散量は含まれていない.モデルの計算結果から,森林キャノピーからの蒸発量は全降水量の22%から29%となることが明らかとなり,また,モデル間の差異は冬季の計算で大きくなることも明らかとなった.冬季は降水量が少なく,キャノピーの貯留量や降水量がポテンシャル蒸発量を満たさなくなるために,モデル間の違いがはっきり現れたものと考えられる.年間の有効降水量は総降水量の71%から78%,年間の蒸散量は727mmから733mm程度と算定された.また,修正近藤モデルにべき関数式を適用したところ,蒸散量の値には大きな影響が,蒸発量の値には若干の影響が見られた.修正近藤モデルによる計算結果は他の二つのモデルの結果とほぼ同等であり,水文モデルに対する時間単位の入力を算出するために使用できると考えられる.モデル間の蒸発散量の違いは,主として樹冠通過率と貯留量流出量関係の定式化の違いから生じている.