著者
モートン ユージン.S
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.69-78,99, 2000-09-10 (Released:2007-09-28)
参考文献数
22
被引用文献数
16 27

コミュニケーションは資源を巡る競争において闘争の代わりをつとめる.コミュニケーションは直接鉢合わせになってしまう危険が無いように他の動物の行動を制御する.メスはつがいの相手になるオスの資質を見定めるためにコミュニケーションを用いる.このように,性選択はコミュニケーションに大きく影響を受けている.音声コミュニケーションの起源は,最初の陸上動物である両生類に今でも見られる.カエルは鳥類や哺乳類と違って,性成熟に達した後も体の成長が続く.大きな個体は小さな個体よりも低い鳴き声を発することができ,闘争すれば強い.両生類では低い鳴き声は他のオスに対しては威嚇的であり,メスにとっては魅力的である.重要なことは,発声のための身体的な構造と音声の持つ機能とが直接的に関連していることである.音声の機能と発声の機構との関連は,人間の言葉のように任意なものではない.鳥類での体の大きさと鳴き声の音程との関係は,どのようにして証明されるのだろうか.体の大きさと音程との関係はより象徴的であり,さえずりを行う鳥の動機を最も良く説明している.鳥は攻撃的なときには低く耳障りな発声を,争いを鎮めようとしたり,おそれているときには高く調子を持った発声を行う.この体の大きさと鳴き声の音程との関係は動機-構造規則モデルと言われる.このモデルは大きさの象徴的意味と動機とを関係づけるとともに,体の大きさと闘争能力という基本的な関係から導き出される.この動機-構造規則モデルは,発生機構の身体的形態と機能との関係を実験するための仮説を立てるのに便利である.ほとんどの鳥の歌のように,長距離のコミュニケーションに用いられる発声は別の問題である,この場合は通常,近くの相手に対する発声ほどには動機は重要ではない.私は,鳥たちが互いの距離をどのように測っているかを説明するために「伝達距離理論」を創り出した.音と音との間の非常に短い時間の間隔を分析する鳥の能力は,音の減衰を知覚するのに役立っている.この減衰とは,歌い手から歌が伝播して来ることによって起こる反響などの変化ではなく,音が球状に広がることによって起こる周波数や振幅の成分変化のことである.彼らは聞こえてきた歌と自分の記憶にある歌とを比較することによって,その音がどの位遠くから伝わってきたかを判断することができる.伝達距離理論は方言や歌のレパートリー,歌の複雑さと同様に,いくつかのグループで歌の学習がなぜ進化したのかを説明する助けになる.