著者
ラフマニノフ セルゲイ 土田 定克 Sergei Rachmaninov Sadakatsu Tsuchida
雑誌
尚絅学院大学紀要 = Bulletin of Shokei Gakuin University (ISSN:2433507X)
巻号頁・発行日
no.83, pp.71-84, 2022-07-28

新しい作品に取りかかるときは、構想を捉えることが先決である。弾き手に才能があれば正しく作品を捉えて伝えることができる。ロシアでは、音楽小学校のうちからテクニックを叩きこむ。ピアニストを目指す者はテクニックを身につけ、肝心要のフレーズのうたい方を学び、何よりも意識の中で真に音楽を感じることができなければならない。この点はテンポを決める際にも同じことである。そして演奏家としての個性を保ちつつも曲の独自性を追究し、ペダルの妙技を極め、因習に陥らないよう気をつけながら真に音楽を理解できるようにならなければならない。そういう真の音楽理解に基づいて聴衆を啓蒙するという使命を持ち、生きた閃きのある演奏を目指すことだ。生きた閃きとは、つまり霊感である。霊感からくる表現はたましいから来るものであって、楽譜に書きこめるものではない。熟練してたましいで奏でているとき、これぞ芸術の使命だという音楽的自覚に目覚めることだろう。