著者
土田 定克 Sadakatsu Tsuchida
雑誌
尚絅学院大学紀要 = Bulletin of Shokei Gakuin University (ISSN:2433507X)
巻号頁・発行日
vol.(74), pp.29-44, 2017-12-20

ラフマニノフの「音の絵」作品39は難解である。8曲も続く苦渋に満ちた短調の末、それを一気に覆すただ1曲の長調。その理解のカギは、終曲で響く聖三打(「タタタン」の律動動機)にある。この聖三打の意味は「行進」に限らない。ラフマニノフの二大ピアノ協奏曲はじめ他の作品の用例を見ると、「決意」「宿命」「勝利」等の意味を担っている。さらに聖三打は原初次元で三一性を脈打つため、原初の「三一性」も象ることができる。それは聴き手に「聖なる動機」を与える大役を担うものである。 ラフマニノフが三一性を重んじた証拠に、「24 の前奏曲」と同様、「音の絵」作品39の頂点では「三連打が三音域で三回」も強調される。こうして「私の力は弱さの中で発揮される」を表す聖三打は、「神の力」を象ったラフマニノフの信仰表現であり、小さくても大きな力を秘めた芥子種に他ならない。
著者
ラフマニノフ セルゲイ 土田 定克 Sergei Rachmaninov Sadakatsu Tsuchida
雑誌
尚絅学院大学紀要 = Bulletin of Shokei Gakuin University (ISSN:2433507X)
巻号頁・発行日
no.83, pp.71-84, 2022-07-28

新しい作品に取りかかるときは、構想を捉えることが先決である。弾き手に才能があれば正しく作品を捉えて伝えることができる。ロシアでは、音楽小学校のうちからテクニックを叩きこむ。ピアニストを目指す者はテクニックを身につけ、肝心要のフレーズのうたい方を学び、何よりも意識の中で真に音楽を感じることができなければならない。この点はテンポを決める際にも同じことである。そして演奏家としての個性を保ちつつも曲の独自性を追究し、ペダルの妙技を極め、因習に陥らないよう気をつけながら真に音楽を理解できるようにならなければならない。そういう真の音楽理解に基づいて聴衆を啓蒙するという使命を持ち、生きた閃きのある演奏を目指すことだ。生きた閃きとは、つまり霊感である。霊感からくる表現はたましいから来るものであって、楽譜に書きこめるものではない。熟練してたましいで奏でているとき、これぞ芸術の使命だという音楽的自覚に目覚めることだろう。