著者
知念 民雄 リヴィエール アン
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.35-55, 1989-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
57
被引用文献数
3 6

1977-1878年噴火によって荒廃した北海道有珠山の火口原全域において,1977年から1984年に至るあいだの自然の植生回復と地形プロセス(侵食および堆積プロセス)との関連を調査した。調査方法は,おもに野外での観察・観測と航空写真判読によった。 植生回復プロセス-残存(survival)と種子散布による侵入(invasion)-と地形プロセスとの関連はダイナミヅクな様相を呈した。残存は植生回復に大きく貢献した。樹木の親株と埋没落枝からの萌芽は新期テフラに浅く覆われた(約50cm以下の層厚)区域でしばしば観察された。数多くの草本植物の地下茎からの回復-樹木に比較して容易に厚いテフラ層(約1mの層厚)を貫いた-は広範囲にわたった。テフラに厚く覆われたが,2次的に開析された斜面においては,リルやガリーに沿う草本植物の残存と侵入が一般的に認められた。軽い風散布種子起源の先駆木本植物は,はじめに火山灰と軽石に特徴的に覆われ,かつ地形プロセスの鎮静化した扇状地に侵入した。草本植物の侵入も,同様に火山灰地より軽石質の区域に優勢であった。リルおよびガリー侵食は,植生回復に物理的被害をおよぼす反面,有機物や種子を外輪山内壁から斜面下部そして火口原へと運搬すると同時に,旧土壌を露出するという重要な役割を演じた。 斜面と扇状地における先駆木本および草本植物の定着の経時変化は地形プロセスの不活発化に大きく左右された。表面侵食速度は顕著な植被回復の開始以前に急減した。このことは,実際の植被回復が加速化した侵食を和らげるのに大きな役割を果たさなかったことを示している。むしろ,地形プロセスの不活発化が植生回復を規定したと言える。 以上のことは,植生回復が基本的には噴火の直接的被害-とくに植生の破壊程度とテフラ層厚-と噴火後の地形プロセスとその推移に大きく依存することを示している。