著者
ワルド R
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

去年に引き続き、江戸後期から現代にいたるまでの浄土真宗における教学展開を研究してきました。ことに、近代化の中で変遷する教団体制と教学との関連性に焦点を与えることに努めました。この関連性を考察するに当って、近代以降、真宗教団内で時折勃発した「異安心問題」(異端問題)を考察し、この問題に内在する近代教学と伝統(江戸)教学との衝突を究明しました。その結果、この問題は単なる「教学」の問題(つまり近代教学と伝統教学との齟齬)ではなく、教団内の政治問題および教育問題(例えば、「伝統的」な学寮と「近代的」な宗派大学との衝突)と深い相関関係があることが明らかになりました。昨年度は主に東本願寺で起きた「村上専精の異安心問題」を取り上げたので、本年度は西本願寺の動向に注目しました。具体的な研究対象としては、大正12年、西本願寺・龍谷大学で起きた「野々村直太郎異安心事件」を取り上げ、近代教学者と伝統教学者との解釈学的相違点を解明し、さらに「言論の自由」と「宗教の伝統」という相容れがたい概念が宗派大学の中でいかに融和され(あるいは融和されなかった)、位置づけられたかを考察しました。今後、この事件に関するより詳細な史料調査を行うつもりですので、事件の全貌を明らかにすることができると確信しております。このように、本願寺の東西における教学問題・論争の全体像の解明へ一歩進んだと考えております。また、この現象における政治性という側面も大いに存在すると認識することもできました。なお、「死生学」関連では、真宗における「小児往生問題」(つまり、子供は浄土に生まれることができるかどうかという重要な教学・倫理問題)についての初歩的な研究を始めました。