著者
一柳 貴博
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.79-94, 2021-03-30 (Released:2021-05-01)
参考文献数
31
被引用文献数
5

本研究の目的は,小学校の通常の学級に在籍するASD特性児に対する「周囲児」の行動メカニズムを検討し,両者の関係形成に向けた支援を提案することであった。小学校教諭95名を調査協力者とした質問紙調査を実施し,周囲児の要支援行動が「ある」と回答した35名のデータを用いて,周囲児の要支援行動および代替行動の内容・きっかけ・結果の回答をKJ法を参考にして分類した。要支援行動については,〈ASD特性児が周囲とずれた行動や発言をする時〉に,【からかい・悪口】【行き過ぎた注意】【除け者・回避】が生じ,【不快体験の生起・維持】や【楽しさを得る】という結果に至っていることが示された。代替行動については,ASD特性児と周囲児の間で「共有」できるものがある時に【友好的な関わり】が生じるというメカニズムと,各々が自分のことに取り組めるような環境がある時に【ASD特性児に対して何もしない】という代替行動が生起するというメカニズムが示された。周囲児の代替行動を増やす支援として,ASD特性児と周囲児が「共有」できる場を増やすこと,各々のことに集中して取り組めるような環境を整えること,休み時間の両者の関わりに着目すること,周囲児自身の話を丁寧に聞くことの四点が見出された。