著者
今岡 真和 板垣 香里 黒﨑 恭兵 七川 大樹 中村 貫照 池内 まり 藪 陽太 児玉 佳奈子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】標準型車いすの多くは,折りたたみ機能を有し座面および背面はスリングシートが採用されている。また,この折りたたみ機能は乗車時の快適性を損なう要因と指摘されている。そこで,これまでに我々は介護老人保健施設(以下:老健施設)入所者を対象にバネ式座面機構を採用した標準型自走式車いすと,従来からのスリングシート機構の標準型自走式車いすを比較し,検討を行ったところ,バネ式座面機構は有意に乗車時の体圧分散性,駆動性,動的安定性の乗車時快適性に関わる3要素が向上するという知見を得た。しかしながら,同タイプ車いすを入所者へ長期使用させることによる,身体や精神に与える影響は明らかになっていない。そこで,本研究は施設入所車いす使用者を対象にバネ式座面機構の標準型自走式車いすを3ヶ月間使用させ,身体機能や精神機能に与える影響を検証することとした。【方法】対象は大都市近郊A老健施設に入所する標準型車いす使用者とした。研究同意が得られた女性19名,平均年齢88.7±6.9歳をランダムに2群化し,バネ式座面機構車いす(ピジョン社製アシスタイースI・II)群10名(以下:イース群)と比較対照とするため,スリングシート座面機構車いす群9名(以下:スリング群)とした。なお,全ての測定は開始前と3ヶ月後の計2回とした。身体・精神機能の影響を明らかにするため,調査項目は握力,股関節屈曲筋力,座面または背面クッションの使用有無,臀部痛の有無,FIM,Geriatric Depression Scale(以下:GDS),Dementia Behavior Scale(以下:DBD),長谷川式簡易知能評価スケール(以下:HDS-R),Neuropsychiatric Inventory-Questionnaire(NPI-Q),食事摂取量,要介護度,年齢,身長,体重,BMIとした。統計解析は調査項目に応じて方法を選択し群内および群間の比較をおこなった。なお,有意水準は5%未満とした。【結果】全ての対象者は継続して3ヶ月間,それぞれの車いすを使用して生活を行った。イース群とスリング群の2群比較は,座面または背面クッションの使用有無でイース群2名(20.0%),スリング群7名(77.8%)とスリング群で有意に座面や背面のクッションを使用していた(p=0.023)。その他の身体・精神機能の評価項目では,全ての項目で有意差を認めなかった。イース群の開始時と終了時の群内比較においても有意に変化した項目はなかった。今回,スリング群で座面や背面のクッションを入れて日常生活を行う者が多数となった結果,本来の座面や背面の機構の違いによる身体面や精神面への影響は明確に調査出来ないという課題が残った。【結論】イース群のクッション使用者は有意に少なかった。これは乗車の快適性に優れていることで,長期使用においても座り心地が快適であることを示唆するものである。そのため,従来のスリングシート式と比べて乗車中の臀部痛や身体接触面の不快感に対策を講じる必要性が少ない。