著者
三上 亮
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.85-95, 2021-07-31 (Released:2022-07-31)
参考文献数
47

本研究では、理学療法士の資格制度形成過程における、政策推進の背景や、アクター間の相互作用を記述し、そのプロセスが専門職化にどう影響したかを考察した。大正年代、リハビリテーションの理念を持った整形外科医によって初めて資格制度案が形成されたが、政策課題として浮上しないまま沈下した。その後、戦時下の戦傷病者対策や、占領期の米国式福祉政策がこの理念と結合することで、リハビリテーション専門職の必要性が認識される土壌ができ、再び資格制度案が浮上した。しかし、政策案の浮上は同時に、既得権者やその隣接職種、内科系医師、視覚障害者などの参入を招き、それぞれが贔屓の政策課題をこの資格制度案と結合させることで解決を図った。その結果、資格制度案に内在していた理念は変質し、整形外科医が望んだ高度な教育や役割への関心が低下した。このことは、理学療法士の専門職化に少なからず影響を与えていると考えられる。