著者
岡田 祥子
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.54-63, 2016

本研究では、重度知的障害者通所施設において利用者本人よりも保護者の要望が優先されることが、どのような論理に基づいているのかについて考察した。意思伝達が難しく、暴力行為も見られるような利用者を支援する職員たちは、自らの安全よりも利用者を優先するような職業的責任を求められる。しかし、インタビューによると利用者が共に暮らす家族の安定も必要となり、時に職員は本人よりも保護者の要望を優先せざるを得なくなる。これは利用者本人の主体性を奪い、障害者の家族を抑圧すると批判されてきた考え方の根拠となる。だが、知的障害者が頼れる機関は少なく、職員は利用者本人だけではなく彼/彼女らを取り巻く環境への対応も求められている。本稿では、職員が「保護者のニーズ=利用者のニーズ」という観点に立ち、保護者のケアをすることが本人の幸せにつながるという論理を組み立てることで、自らを納得させ、現場に立ち続けていることを明らかにした。
著者
田島 明子
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.64-73, 2012

本稿は、民間研究費獲得の実際として、筆者が獲得した「作業療法ジャーナル研究助成」について紹介するものである。「作業療法ジャーナル研究助成」は、三輪書店の公刊する『作業療法ジャーナル』という雑誌内で行われている。このような出版社による研究助成はめずらしい形態である。出版社、受賞者双方に取材を行ったところ、出版社にとって、本研究助成は作業療法の専門性の発展のために行うという発意があったこと、また受賞者にとっては、資金を得たことで研究に取り組みやすくなったり、他職種からの理解や協力を得られやすくなったり、同業者に自分の研究を知ってもらえたりする等により、研究意欲を掻き立てられる良い機会になっていることが明らかになった。
著者
結城 康博
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.58-68, 2001

現在、我が国の社会福祉制度は、措置制度解体によって大きな転換期を迎えようとしている。特に、公的機関中心の制度から市場原理を導入した新たな枠組みで社会福祉制度が構築されようとしている。しかし、そもそも市場原理の導入がうまく機能していくためには、需要と供給がバランスよく均衡していなければならず、現状の福祉分野では供給不足が目立ちうまく機能しているとはいえない。本稿では、この需給のアンバランス状態を指摘したうえで、安易な社会福祉制度における市場原理の導入が危険であることを述べ、その根源は、従来から「国家」対「市場」といった二極的な概念に基づく政策論争にあることを指摘したい。そのため、アマルティア・センの「潜在能力」アプローチから今後の社会福祉制度を検証することで、新たな福祉制度概念を提唱しその方向性について述べていきたい。
著者
渡辺 克典
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.24-29, 2014-07-31 (Released:2016-04-27)
参考文献数
56

障害学と障害者運動をめぐる研究動向について述べた。障害学研究の動向は、(1)「社会モデル」をめぐる理論的基礎研究、(2)社会科学への応用研究、(3)「当事者」研究、(4)障害学の視座にもとづく主題別の研究がある。障害者運動研究については、(5)日本における障害者運動史、(6)障害者運動史を踏まえたソーシャルワーク・支援研究、(7)地域における障害者運動研究、(8)障害者運動史から障害学のあり方をとらえなおす研究、といったかたちで展開されている。最後に、筆者が考える今後の研究課題として、当事者参画をめぐる政治研究や支援技術への応用を挙げた。
著者
市野川 容孝
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.32-38, 2001
被引用文献数
1

不妊治療をめぐる議論は、例えば「代理母を認めるか否か」、「卵や受精卵の提供を認めるか否か」といったものに集中しがちだが、日本の不妊治療については、より根本的な問題、すなわち不妊治療にたずさわる医療者が各々、互いに大きく異なる方針の下、非常に異なる「治療」を実施しているという問題がある。本稿では、この医療における「アノミー」とでも言うべき状況を、不妊治療経験者、および不妊治療を手がける医療者、双方からのヒアリングによって具体的に明らかにする。加えて、こうした「アノミー」が日本の不妊治療において発生する社会的ないし制度的な要因を、イギリスおよびドイツとの比較を通じて明らかにする。
著者
佐藤 伊織 戸村 ひかり 藤村 一美 清水 準一 清水 陽一 竹内 文乃 山崎 喜比古
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.39-49, 2004

我々は、不妊治療と出生前診断について、一般市民の知識・信念・態度を、自記式調査票により調査した。東京都N区の住民基本台帳から30代〜50代の者179名を無作為抽出し、そのうち住所の明らかな169名を対象とし、99の有効回答を得た。各調査項目と属性間、一部項目間の二変量の関係についてPearsonのx2検定を行った。不妊治療の知識やそれへの態度については、男女に明確な差は認められなかった。しかし、女性の方が不妊治療をよりシビアにとらえる傾向が見られた。市民の中には、不妊を夫婦双方の問題として取り組む姿勢も見られ、これからは実際に男性からも積極的に不妊治療に参加できる環境を整えることが望まれる。出生前診断や中絶に関する態度は、その人の年代・子どもの有無によって違いが見られた。出生前診断が必ずしも優生思想や障害者差別に結びつくものではないという点について特に、認識の普及が必要である。
著者
結城 康博
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.104-114, 2005

医療技術の進歩は患者の利益を向上させる反面、社会福祉分野のニーズを高め生活面の課題を担わせることにつながる。確かに、「第一次医療革新」を基本とした医療技術は根治型医療につながり、患者は限られた福祉資源しか必要としなかった。しかし、「第二次医療革新」が基軸となっていく時期には、クライエントは多様な福祉制度の活用に迫られることになった。例えば、人工透析患者や慢性疾患等のクライエントは、「第二次医療革新」を中心とした医療技術の恩恵を受けたものの、より福祉分野のニードを必要とすることになった。本研究では、医療技術の進展に伴う社会福祉分野の役割・機能について分析し、医療と福祉の関連について論じることとする。そして、遺伝子医療が主流になると予測される将来、医療技術の進歩を視野に入れた福祉制度の構築が必要であることを明確にする。
著者
高山 智子 八巻 知香子
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.39-50, 2016-07-31 (Released:2018-01-31)
参考文献数
20
被引用文献数
1

患者自らが健康や医療に関する情報を探し活用する力は、今後ますます重要となり、近年増加するインターネットやソーシャルメディアなどの新しいメディアを介した情報による第二次の情報格差も懸念される。本研究では、健康関連の情報を得るときに、人々がさまざまな情報媒体をどのように活用しているのか、情報入手経路の特徴、人々の背景要因による情報入手経路の活用の仕方を検討し、特にインターネットを介した情報提供方法の今後のあり方の示唆を得ることを目的として検討を行った。その結果、調査協力者の3/4以上が、自分もしくは家族や周囲でがんの経験を持ち、健康あるいはがん関連の情報入手経路は、性別、年齢、教育背景、職業により異なる特徴を示した。今後はこれらの異なる背景要因を手がかりとした情報格差を是正する具体的な介入方法や実際に活用できるアプローチを検討し、情報を探し、活用できる力につながるようにしていくことが必要である。
著者
海老田 大五朗
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.104-115, 2011

本研究は、接骨院における柔道整復師と患者のコミュニケーション研究の一編である。本研究で使用するデータは、柔道整復師によるセルフストレッチングの指導場面の映像データであり、このデータについて相互行為分析を行った。セルフストレッチングの指導の中で、患者の身体の操作および構造化が、柔道整復師と患者の相互行為によって達成され、いわゆる「I-R-E」連鎖構造が多くみられた。患者の身体の構造化とこれらの連鎖構造こそが本データの相互行為秩序を特徴付けている。
著者
海老田 大五朗 藤瀬 竜子 佐藤 貴洋
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.52-62, 2015-01-31 (Released:2016-07-31)
参考文献数
23

本研究は、障害者を雇用する側が障害者の特性や抱える困難に配慮する労働の「デザイン」に焦点を定めて分析し、障害者を生産者として位置づけるための創意工夫を、インタビュー調査やフィールドワークによって明らかにする。その際、障害者の特性や抱える困難を「方法の知識」という切り口によって細分化し、その細分化された困難を克服するような「デザイン」がどのように組み立てられているかを記述する。ここでは2つのデザインを検討する。1つは、障害者の雇用を可能にする作業のデザインである。もう1つは、障害者が会社に定着することを可能にする組織のデザインである。言いかえるならば、筆者らは、これら2つのデザインによって、知的障害者が採用され企業に定着することが、どのように実現するのかを論証する。
著者
小坂 有資
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.27-37, 2014

本稿の目的は、ハンセン病者やハンセン病療養所の記憶や記録の継承可能性について考察するためのひとつの視座を示すことである。具体的には、瀬戸内国際芸術祭2010の舞台のひとつである国立療養所大島青松園における他者(よそ者)の活動を考察し、その活動がハンセン病者にどのような社会関係の変化をもたらしたのかということに焦点をあてた。その考察の結果、瀬戸内国際芸術祭2010での他者の活動により、(1)大島青松園内の関係性の変化がもたらされるとともに、(2)大島青松園の内と外とをつなげる新たな契機が形成されつつあることを示した。加えて、(3)他者がハンセン病者やハンセン病療養所の記憶や記録の継承に関わる可能性を明らかにした。
著者
秋谷 直矩
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.56-67, 2009
被引用文献数
1

本稿では、高齢者介護施設(デイサービス)でのケアワーカーと高齢者間の会話を分析する。フェイスワーク論に基づいた会話分析を分析法として用い、そこでの会話構造上の制度的特徴を明らかにする。特にケアワーカーの「申し出」に着目した。会話分析の文脈で従来語られてきた「優先構造」的シークエンスや、「申し出」そのものの発話的特徴を仔細に分析していった結果、ケアワーカーが「申し出」として理解される発話を使うことそれ自体が制度的特徴であることが示された。また、その特有の会話構造ゆえに発生するジレンマ的状況も記述された。こうした問題に対処していくため、「何が問題なのか」ということを捉えると同時に、それが「どのような(相互行為的)手続きを経て」問題となったのか、ということを見ていく必要がある。
著者
松村 剛志
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.25-36, 2005
被引用文献数
1

従前の高齢者介護研究においては、主に家族介護者に焦点があてられ、要介護者の視点が欠如していたといえる。また、家族介護といった場合、老親扶養がその着目点の中心であった。そこで本論文では、在宅で介護を継続している9組の夫婦にインタビュー調査を行い、介護関係の発生による夫婦関係の変化を明らかにしようと試みた。その結果、夫婦双方の語りの中から、性規範に基づいて家庭内で分業されていた役割が、夫権支配は残存しながらも、要介護状態の発生により、双方の能力に応じて再配分されていく様子が浮かび上がってきた。夫婦間介護における関係性には、勢力の偏重による支配と依存という側面とお互いに気遣い合うという相補的な側面の共存が認められた。また、夫婦関係と介護関係という二つの関係は、特定場面で調和的に使用されているわけではなく、そのズレは夫婦間の不満や葛藤の原因となっており、その多くは感情労働を求められる妻に生起していた。
著者
宝月 理恵
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.85-95, 2012

本稿の目的は、戦後日本における歯科衛生士の専門職化運動を、医療専門職システムにおける専門職プロジェクトとして把握し、その変容過程と特徴を明らかにすることにある。歯科衛生士団体の機関誌、歯科学雑誌、国会会議録、および歯科衛生士を対象としたインタビュー調査記録の分析から、歯科衛生士と業務の協働・分業を行う歯科医師、歯科技工士、(准)看護婦、歯科助手の支配管轄権をめぐる境界線の変容過程を詳細に検討した。その結果、専門職間の縦のヒエラルキーのみならず、縦横の競合関係が歯科衛生士の専門職化プロジェクトの方向性を決定するとともに、国家政策やジェンダー関係といった外的要因が日本における歯科衛生士の専門職化の道程を規定してきたことが明らかになった。