著者
三上 紗季 山口 泰彦 斎藤 未來
出版者
一般社団法人 日本全身咬合学会
雑誌
日本全身咬合学会雑誌 (ISSN:13442007)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.16-23, 2020-11-30 (Released:2020-12-30)
参考文献数
17

側方運動を抑制する急傾斜の犬歯誘導を付与したオクルーザルアプライアンス(側方抑制スプリント)で治療した重度の睡眠時ブラキシズム(SB)症例について報告した.患者は,20 歳代女性で,歯ぎしり音を主訴に本院を受診した.SB の臨床診断のもと,当初一般的なスタビリゼーションアプライアンスを用いて治療を行ったが,睡眠時筋電図検査によるSB 評価では全くSB 波形数の低減が認められなかった.それに対し,側方抑制スプリントを適用したところ,大幅なSB 波形数の低減を示した.側方抑制スプリントの長期間の使用によっても,歯や歯周組織,顎関節,筋などに異常は認められず,良好な経過が得られた.本症例の治療経験から,オクルーザルアプライアンスの形態によってはSB が大幅に低減する場合があり得ることが示された.ただし,側方抑制スプリントがすべてのSB 症例に奏効する保証は今のところなく,睡眠時筋電図検査を用いた客観的な効果判定を行い,使用継続の適否の判断を的確に行うとともに,歯や歯周組織などに関する慎重な定期観察が必要と考えられた.
著者
三上 紗季 山口 泰彦 岡田 和樹 後藤田 章人 松田 慎平
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.121-130, 2009-02-28
参考文献数
32
被引用文献数
3

目的:歯科臨床における簡便で精度の高い睡眠時ブラキシズム(SB)の評価法の実現を目指し,我々はこれまで超小型コードレス筋電図計測システム,BMSを開発し,日中覚醒時の顎運動における測定精度や夜間睡眠時を想定した体動や装置への接触の影響の検討等を行ってきた.本研究ではBMSのSB評価装置としての実用化を図るため,実際に自宅における夜間睡眠時の咀嚼筋の活動を支障なく測定できるかどうかの検証を行った.方法:対象はブラキサー群9名,非ブラキサー群9名で,被験者の自宅にて2日間,右咬筋を対象に測定を行った.2日目のデータを解析の対象とし,最大咬みしめの20%以上の大きさで,0.25秒以上持続するバーストを抽出し,両被験者間で比較した.入眠と起床の確認には,小型睡眠センサー,アクティグラフ(A・M・I社製)を用いた.結果:すべての被験者で,自宅での装置の設定,操作が可能であり,記録されたデータでは筋活動波形の認識,解析が可能であった.稀に混入した通信エラーと考えられるスパイク状のノイズは,データ解析時に識別,除去が可能であった.ブラキサー群と非ブラキサー群の筋活動の比較では,睡眠1時間あたりのバースト数,バースト時間,バースト積分値において,ブラキサー群は非ブラキサー群と比較して有意に大きな値を示し,それぞれ前者は後者の6.3倍,3.2倍,2.5倍だった.バースト毎の持続時間の平均値は,ブラキサー群は非ブラキサー群と比較して有意に小さな値を示した.バーストRMS値,睡眠時間については両群間で有意差は認められなかった.結論:BMSを用いた測定では,ブラキサー群と非ブラキサー群の自宅における夜間睡眠時の咬筋筋活動波形の認識,解析が可能なことが示され,BMSは睡眠時の臨床的な咬筋筋活動モニターとして実用可能な装置と考えられた.