著者
三好 信哉
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

水分子と固体表面の相互作用は,電気化学,不均一触媒,更には腐食問題など様々な現象と密接に関連していることから,これまでに精力的に研究が行われてきた.また近年は,表面の影響が顕著に表れるナノ空間材料を用いた水分子輸送の制御などに関しても盛んに研究が行われている.例えば次世代のエネルギー生成デバイスとして期待される固体高分子型燃料電池では,マイクロボーラス層と呼ばれる細孔径10~100nmの炭素系ナノ細孔を用いることで,電極で生成される水蒸気の輸送特性が向上することが報告されている.代表長さが数十nm程度のナノ空間においては,気体分子の衝突相手の大部分は固体表面となることから,気体-固体表面間相互作用,特に散乱挙動の理解は輸送特性の定量的な予測を行うためには必要不可欠である.そこで本研究では入射エネルギー35~130meVの水分子線を使用し,入射分子線のベクトルと表面法線ベクトルを含むin-plane面内に加え,in-plane面外,即ちout-of-planeでも散乱計測を行っている.また,吸着,表面滞在,脱離という一連のプロセスの解析をMDシミュレーションによって行っている.分子線散乱実験では散乱分子の質量流束と並進エネルギーの角度依存性を計測した結果,入射エネルギーが64,130meVの場合はin-plane面内は10bular散乱となり,out-of-planeへの散乱の広がりは小さいことが示された.一方、吸着エネルギーと比較して低い入射エネルギー(35meV)の場合,表面法線方向,及びout-of-planeへの散乱分子が増加し,拡散的な散乱挙動になることが明らかになった.MDシミュレーションによる解析では,入射エネルギー35~130meVの範囲で,大部分の分子は表面に長時間(16~18ps)滞在した後に散乱すること,表面滞在中の適応過程や散乱分子の特性が,法線,接線方向,更にはそれら二つの方向に垂直な方向ごとに異なることが示された.