10 0 0 0 OA 可能動詞の成立

著者
三宅 俊浩
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.1-17, 2016 (Released:2017-03-03)
参考文献数
23

本稿は「読める」等「可能動詞」の成立過程について論じる。従来その成立については「レル」起源説,「得ル」起源説,下二(一)段自動詞「切ルル>切レル」等への類推説という三つの説が存在する。本調査により,中世末期の「読ムル」が動作主を取らず対象語に備わる一般的な可能属性を叙述するものであり,さらにこの様相は語彙的・意味的・統語的に近世前期の可能動詞と連続的であることが確認された。一方,「レル」「得ル」は「読ムル」および可能動詞の様相と著しく異なるものであった。さらに自動詞類推説について検証すると,属性叙述を行う有対下二(一)段自動詞と四段他動詞の関係は,可能動詞および「読ムル」と派生元の四段他動詞との対応と並行的であることがわかった。以上から可能動詞は属性叙述を行う下二(一)段自動詞への類推により成立したと結論付けた。
著者
三宅 俊浩
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.1-17, 2019-12-01 (Released:2020-06-01)
参考文献数
16

本稿は近世尾張方言におけるラ抜き言葉の成立過程について論じる。尾張方言では,中央語(上方・江戸)に約100年先駆けて19世紀初頭にはラ抜き言葉が用いられるが,初期は2拍動詞にのみ起こる現象であった。その成立は,尾張ではラ行五段動詞の可能動詞形(ex. おれる)と尊敬レル形(ex. おられる)の意味対立をラ音の有無によるとみなす異分析が生じ,この異分析が[語幹‐接辞]の分析が困難な2拍一段動詞に過剰適用されたことによると推定した。この「異分析の過剰適用」を促した主要因はレル・ラレル敬語法と,可能動詞として頻用されるラ行五段動詞オルであると考えられる。この仮説によれば,同条件を備えていない中央語ではラ抜き現象が生じず,同条件を満たす中国地方にラ抜き言葉が多いこととも整合する。