著者
平井 景梧 山下 博子 友重 秀介 三島 祐悟 大金 賢司 佐藤 伸一 橋本 祐一 石川 稔
雑誌
日本薬学会第142年会(名古屋)
巻号頁・発行日
2022-02-01

アルツハイマー病やハンチントン病などの神経変性疾患は、従来の創薬手法では対応できない凝集性タンパク質が原因であり、根治療法の開発には新たな創薬アプローチが求められる。我々はこれまで、タンパク質分解誘導薬Proteolysis Targeting Chimera(PROTAC)が凝集性タンパク質の分解を誘導でき、神経変性疾患の創薬アプローチになりうることを示してきた。しかし、PROTACは連結化合物であるため分子量や極性が高く、神経変性疾患の病巣である脳へと到達しづらいと予想される。これを解決するうえで、別のタンパク質分解誘導薬である疎水性タグ(HyT)に着目した。HyTはPROTACのE3リガンドを分子量の小さい疎水性構造に置き換えた構造を持ち、標的タンパク質の表面に疎水性構造を提示する。これがタンパク質の変性状態を模倣し、タンパク質品質管理機構による認識とユビキチン―プロテアソーム系を介した分解へと導く。これを踏まえ、我々の凝集性タンパク質に対するPROTAC 1をHyTへと変換すれば分子量と極性を低下させ、中枢移行性を向上できると考えた。PROTAC 1を基に設計・合成したHyTはいずれも、ハンチントン病の原因となる凝集性タンパク質変異huntingtinの存在量を減少させた。また、脳移行性の予測に用いられる固定化人工膜カラムにより各化合物の脳移行性を推定したところ、いずれのHyTも1よりも脳移行性が良いと示唆された。この結果を参考に、一部のHyTについてマウスを用いた脳移行性試験を行ったところ、HyT 2が脳移行性を示すことを見出した。本発表ではその他の結果も併せて報告し、PROTACからHyTへの変換による活性や薬物動態への影響についても議論する。