著者
三島 貴雄
出版者
独立行政法人国立文化財機構京都国立博物館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

本研究では宋代美術のうち、元照(1048~1116)の思想を元に作成された元照系統の観経変、特に長香寺と阿弥陀寺所蔵の重要文化財「観経十六観変相図」と、元照『観無量寿経義疏』及び関連著作との比較検討を行った。(1)元照系観経変について当麻曼茶羅や敦煌の観経変、十六観図との比較を通じて、元照系観経変は従来の観経変の作例を参考に作られているものの、十六観図のうち第一日観と第五池観にはそれまでの作例とは異なる特徴が見られることが判明した。この特徴から、新たに折本装の知恩院蔵「紅紙金字十六観経」一帖(高麗時代末~李朝時代)が元照系統の図像の影響を受けて成立したものであることが明らかとなった。また、同じく折本装の「大智律師禅観図」(明~清時代)のような作例もあり、これまでは観経変形式のものが注目されてきたが、それ以外にも元照系統の図像が流布し、用いられていたことが分かった。(2)「観経十六観変相図」について「観経十六観変相図」の図像については、元照の解釈にほぼ忠実であることが再確認された。他の系統の観経変に見られない図像として、日観の横の雲に乗った章提希の描写があり、韋提希を菩薩と解釈する元照の思想を反映したものと考えられる。対して、全体の構成に注目すると第七観の配置と題記は元照の解釈とは異なり、唐の善導(613~681)の解釈に近いものであることから、「観経十六観変相図」の作成にあたっては、善導系統の観経変が参考にされた可能性も高い。(3)今後の課題現存作例から考えると、朝鮮半島において元照系統の図像を用いた作例が多く作られたと推測出来るが、朝鮮半島の元照系統の観経変には『無量寿経』に基づく描写や、元照の解釈からは離れた描写などが付加されていることが確認された。朝鮮半島における元照の思想や観経変の図像の受容については今後の課題である。