著者
三浦 憲蔵 スバサラム タドサク タウインタング ナクン ヌチャン ナリス 白石 勝恵
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.40-47, 1990-03-01
被引用文献数
2

東北タイ, コンケン県ポン地区においてシロアリ塚跡の地点で認められた高い生産力の要因を究明するため, 当地区においてキャッサバおよびゴマ畑でシロアリ塚跡の地点とその近傍の未攪乱の地点を対象に土壌の形態的および理化学的な検討を行なった.形態的には, シロアリ塚跡の地点では未攪乱の地点より, 層厚で, 暗色味の強い, 粘土に富むA層が形成されており, シロアリ活動による強度の土壌攪乱が認められた.特に塚跡の中心部では基岩の直上部に及ぶまで土壌攪乱による均質化が起こっていた.この土壌攪乱の程度は塚跡の中心部から外部に向かって次第に弱まった.理化学的には塚跡の地点では, それに隣接する未攪乱の地点と比較して, 粘土, 全炭素, 全窒素, 有効態リン, 交換性塩基(カルシウム, マグネシウム, カリウム)などの含量が高かった.シロアリ活動による土壌の形態的および理化学的な変化はシロアリが塚の主材料として用いたスメクタイト質の粘土を基岩直上部から運び上げ, さらに土壌粒子や団粒の膠着剤として用いた有機物(唾液や糞)を土壌中に取り込んだことに基づくものと考えられた.塚跡の地点における高い生産力はシロアリ活動による上記のような粘土と有機物の取り込みに起因する土壌肥沃度の向上によるものと考えられた.但し, 塚跡の中心部分では高pHによるリン, 鉄などの要素欠之が作物生育を制限したものと考えられた.以上より, シロアリ活動がもたらす土壌攪乱は元の土壌性質を一変させるほどに激しいものであり, 土壌の生成並びに肥沃度の面できわめて大きな意味を持つものと言えた