著者
阿部 広明 嶋田 透 三田 和英
出版者
東京農工大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

カイコの性染色体型は雄はZZ,雌はZWで、W染色体が1本でもあれば、その個体(細胞)は雌になる。カイコのW染色体上に存在していると考えられる雌決定遺伝子(Fem)をクローニングすることを目的とし、W染色体の分子生物学的ならびに遺伝学的解析を行った。W染色体は遺伝的組み換えを起こさないため、これまでに得られている分子マーカーのマッピングは不可能であった。しかしW染色体に放射線を照射して作製したW染色体の変異体は、いろいろな程度で欠落が生じていることが明らかとなり、deletionマッピングが可能となった。これらの変異体を利用したマッピングにより、雌決定遺伝子はW染色体の中央付近に座位していると考えられた。また、雌の繭だけ色が黄色くなる「限性黄色繭W染色体」では、通常のW染色体で12個あるDNAマーカーのうち、わずか1個(W-Rikishi RAPD)を保有するだけであった。すなわち計算上ではW染色体が1/12の長さにまで削られていると考えられる。このマーカーを出発点として、BACライブラリーよりW染色体特異的クローンを得てDNA塩基配列の解析を行った。その配列の特徴は、これまでに得られているW染色体の塩基配列と同様に、レトロトランスポゾンが複雑に入り込んだ「入れ子」構造であり、解析そのものが大変困難である。しかしごく最近、カイコ(雄を使用)の大規模ゲノム解析が行われ、レトロトランスポゾンの詳しいデータも得られるようになった。これらのデータを使用することにより、以前よりW染色体の解析は効率的に行えるようになった。現在までのところ、雌決定遺伝子と考えられる塩基配列の特定には至っていないが、その存在領域を確実に絞り込むことには成功し、現在も絞り込まれた領域を解析している。