著者
三留 雅人
出版者
徳島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

海馬歯状回には神経幹細胞が存在し,成体においても分裂を続け,記憶や空間認識に関与していると考えられている。最初に制限給餌が海馬神経幹細胞の性質,増殖,分化,維持及び機能に与える影響について調べるために,マウスに13時から17時までの4時間のみに餌を与える制限給餌を8週間行い,海馬歯状回において分裂した神経幹細胞のマーカーであるBrdU (bromodeoxyuridine, 50μg/g b.w.)を1日1回,12日間投与した。投与終了1日後,半数を4%パラホルムアルデヒデドにて灌流固定し,固定後脳を取り出し,ビブラトームにて50μmの厚さで海馬全体の連続切片を作成した。残りの半数はBudU陽性細胞の一定期間後の生存・分化を調べる目的で,さらに各条件で5週間飼育した後,灌流固定を行い同様の脳切片を作成し,分裂した神経幹細胞を蛍光免疫染色法により調べた。制限給餌群では,BrdU投与直後では,BrdU陽性細胞数には変化はなかったが,BrdU投与5週間後において,制限給餌群のBrdU陽性細胞数が有意に増加していた。次に,制限給餌における味覚の影響を調べるために,マウスに12時30分から20分間サッカリンを溶かした水を8週間与え,同様にして海馬歯状回における神経幹細胞の増減を調べたところ,サッカリン投与群では,BrdU投与直後およびBrdU投与5週間後で,BrdU陽性細胞数が有意に増加していた。これらの結果,制限給餌は,海馬歯状回神経幹細胞の維持を上昇させ,さらに,ノンカロリー成分であるサッカリンの制限投与のみでも,神経幹細胞の増殖と維持の上昇に関与したころから,味覚による一日一定時間の刺激は,海馬歯状回神経幹細胞の増減に関与し,記憶や空間認識に影響を与えることが示唆された。以上のことから,規則正しい食生活は,中枢神経の活性化に関与していることが示唆された。