著者
上原 克人
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

東シナ海陸棚は面積こそ全海洋の0.35%にすぎないが、この海域へ黄河・長江両河川から流入する土砂は世界中の河川から海洋へ流入する量の12%に達し、光透過度や栄養塩の輸送、海底堆積物の粒径変化などを通して海域の生態系に大きな影響を与えるとともに、中国東岸での過去6千年で200kmに及ぶ海岸線の前進を引きおこすなど陸棚の地形発達にも深く関与してきた。そのため東シナ海においてこの陸起源の土砂の振る舞いを把握することは当該海域の海洋環境を理解する上で非常に重要である。過去の観測結果からこの河川由来の土砂の多くは沿岸域でいったん堆積した後、再懸濁を繰り返しながら陸棚域を移動することが示唆されてきたが、再懸濁の発生頻度や空間分布は、陸棚全体にまたがる年間を通した研究はこれまで行われておらず、理解が十分であるとは言えなかった。そこで本研究では陸起源の土砂輸送過程の中でも再懸濁過程に的を絞り、東シナ海陸棚上で一般流、潮流、波浪に起因する底摩擦の強度を過去10年間にわたって推定し、再懸濁を引き起こす可能性のある強い底摩擦が発生する頻度を調べた。その結果、従来から指摘されていた冬場の暴風だけではなく、台風通過も再懸濁を引き起こす大きな要因となりうることが判明し、夏から初秋にかけての再懸濁も東シナ海の物質輸送に影響を与えている可能性が示唆された。さらに黄海の中国沿岸と韓国沿岸では、同じモンスーン気候の影響下にあるにもかかわらず、陸域配置の関係から再懸濁発生の季節変化のパターンが異なることが明らかになった。この結果は両岸での干潟発達の観測結果と良く対応しており、東シナ海沿岸の潮間帯の季節変動を理解する上で海域全体を体系的に調べることの重要性を示している。