著者
上岡 克己
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究「レイチェル・カーソンと緑の伝統」は『沈黙の春』(1962)出版により人々の世界観や自然観を一変させ、その後の環境保護運動に大きな影響を与えたアメリカの作家レイチェル・カーソン(1907-64)について、ネイチャーライティングの視点から考察しようとする試みである。 カーソン研究はもっぱら彼女の代表作『沈黙の春』を中心に論じられ、しかもそのアプローチは化学物質の危険性といったような、きわめて理系的発想で行われてきた。しかしながら「環境」そのものが私たちの生活や生き方と密接に関連している以上、理系的方法論には限界がある。「環境の問題」は、究極的に「人間の問題」、「文化や文明の問題」である。本研究では、例えば『沈黙の春』は殺虫剤や除草剤汚染を告発した書というよりは、私たち人類の生き方や文明を問い直す書として捉えていきたい。そこに文学研究の意義があると思う。本研究は、彼女の著作に英米の緑の伝統(ネイチャーライティングが持つ文学性、自然保護思想、エコロジー思想、自然教育)を認め、2年間の研究期間内で主にカーソンとネイチャーライティングの系譜について考察し、成果として共編著書『レイチェル・カーソン』(ミネルヴァ書房、2007)と論文「カーソンが愛した作家ヘンリー・ベストン」(『国際社会文化研究』8号、2008)に結実した。