著者
上木原 静江
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.35-51, 1993-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
24

メキシコにおける国民経済の中で農業と牧畜業は主要な経済活動である。1940年代から農業の近代化が農地の拡大と改良,農産加工場の設立などを通じて始められた。この過程において,多国籍企業は農牧業生産を集約化させ,作物の変化をもたらした。多国籍企業は種子・農薬・農業機械の生産も行い,農業の全生産過程を支配している。 本研究は,メキシコの農牧業における多国籍企業の浸透をその農業と農村への影響から明らかにしようとするものである。 メキシコにおける多国籍企業の多くは1950年から1970年に設立されたものである。主要な企業は飼料や酪農製品の生産および野菜・果物の加工などに関するものであり,メキシコ中央部グアナフアト州バヒオ地方はその代表的な地域である。バヒオ地方は昔から農業生産が主要な経済活動であった。しかし,1950年頃の多国籍企業の進出とともに,作物と生産方法が変化し,土地利用はより集約的になった。実際に多国籍企業は2種類の農業経済地域を形成してきた。第1のタイプは多国籍企業による野菜・果物生産地域の形成である。ここでは,多国籍企業は生産過程のすべてを支配していた。第2のタイプは多国籍企業が飼料の生産を行わせ,その飼料を基盤に養鶏,養豚生産を行う肉生産地域の形成である。バヒオ地方はかって主要なトウモロコシ・インゲン豆生産地域であった。しかし,多国籍企業の進出とともにソルゴー・大豆が導入され,飼料生産地域に変化した。2っのタイプとも,多国籍企業は資本を蓄積した農民と契約栽培して,農産物の量・品質・供給の時期を確実なものとしている。