著者
上杉 慎一 東山 一郎
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.2-29, 2022 (Released:2022-03-20)

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、1年延期された末、2021年7月から8月にかけて開催されたオリンピック東京大会。開催直前、東京には4回目の緊急事態宣言が出され、ほとんどの競技が無観客の中で行われた。 コロナ禍で行われた今大会の開催については、事前の世論調査で賛成・反対の意見が分かれ、メディアの報道もそうした状況を反映したものになった。しかし「オリンピックが始まればオリンピック報道一色になるのに違いない」「メディアは手のひら返しをするのではないか」という声も聞かれた。果たして、メディアは「コロナ禍の五輪」をどう伝えたのだろうか。コロナのニュースが埋もれることはなかったのであろうか。 それを知るためにNHK放送文化研究所では、2つの量的な調査を行った。テレビのメタデータを使ったニュース8番組の分析、それに全国紙3紙の1面の分析である。調査の結果、オリンピック関係のニュースを伝えるタイミングが過去2大会より大幅に早くなったこと、新型コロナの第5波を受けて、大会の途中から特にテレビではトップニュースがオリンピック関係からコロナに関するニュースに置き換わり、コロナの報道量も増加したこと、その反面、大会期間中の報道量としてはオリンピック関係のニュースが最も多かったことがわかった。
著者
上杉 慎一
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.73, no.8, pp.34-51, 2023-08-01 (Released:2023-08-22)

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は2023年2月24日で1年を迎えた。日本のメディア、とりわけテレビはこの1年をどのように伝えてきたのだろうか。 それをつかむためNHK放送文化研究所は夜のニュース番組を対象に報道内容の量的な調査を行った。また、実験的な試みとしてコンピューターを使ったウェブ記事の内容分析も行った。さらにオンラインによる公開イベントの「文研フォーラム2023」で、日本のメディアに何ができて何ができなかったのかを議論した。 量的調査からは、当初、「戦況・被害」に関する報道が中心だったものが、時間の経過とともに「ウクライナ国内」それに「ロシア国内」の動きに報道内容が変化してきたことが確認できた。一方、文研フォーラムでは戦争が長期化する中、いかに人々の関心をつなぎとめることができるか、そのためにメディアにできることは何か、現場取材・スタジオ解説の意義や課題は何かなどについて、意見交換した。 本稿は量的調査の結果を詳述するとともに文研フォーラムでの議論の概要を報告するものである。ウクライナ侵攻の報道をめぐる論考は今回が2回目であるが、本稿脱稿時点でも戦争終結の道筋は全く見えず、引き続き事態が進行する中での論考となった。
著者
上杉 慎一
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.72, no.7, pp.38-50, 2022-07-01 (Released:2022-08-20)

2022年2月24日、ロシアが隣国ウクライナに軍事侵攻した。圧倒的な軍事力を背景に、空からのミサイル攻撃と並行し地上軍も進軍させた。当初は首都キーウの陥落も時間の問題とみられた。力による一方的な現状変更にアメリカはじめG7各国は強く反発し、経済制裁を強化した。世界各地で反戦デモが行われ、ロシア国内でも反対の声が上がった。 21世紀に起きた侵略戦争を日本のテレビはどう伝えたのだろうか。それをつかむため、報道量の調査を行った。調査対象期間は侵攻初日から最初の停戦交渉が行われた2月28日までの5日間。調査対象はNHKと民放の夜のニュース番組5番組とした。またこの間の、スタジオ解説や中継・リポート、オンライン取材、SNSで発信された映像についても調査・分析を進めた。調査の結果、期間中の報道では戦況や被害、ロシアの思惑、経済制裁に関する報道量が多かったことが分かった。さらにSNS映像が多用され、一連の報道を「ソーシャルメディア時代の戦争報道」と位置付けられることも判明した。 本稿校了時点で戦闘がやむ兆候は見られず、事態は長期化している。今回の調査は侵攻初期に焦点を当てたものだが、戦争報道の全体像をつかむためにはさらに長期間を対象にした調査や過去の戦争報道との比較も重要となる。