著者
上村 淳志
出版者
くにたち人類学会
雑誌
くにたち人類学研究 (ISSN:18809375)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.54-71, 2011

同性愛嫌悪の根強いラテンアメリカ諸国でも、近年同性カップルに法的保護が与えられつつある。また、ラテンアメリカの男性同性愛者を捉える研究モデルであった、アクティーボ(activo)/パッシーボ(pasivo)の二分法の意義も見直されている。本稿の目的は、そうした変化を踏まえて、メキシコの男性同性愛を捉え直す方向性を検討することにある。アクティーボ/パッシーボの二分法に還元して男性同性愛を語ることは、文化本質主義であり、多様な性的実践を看過するものだと近年批判されている。批判の際に注目されてきたのは、象徴的暴力を防ぐ為に男性同性愛者が実践してきた性行為である。その行為を表すのに越境の隠喩が用いられ、実際に国家を越えた移動や国家間関係はメキシコの男性同性愛者に影響を与えてきた。ゆえに、文化本質主義批判を踏まえた上でも、国家間関係に配慮してメキシコの男性同性愛を分析する必要がある。だがその際には、異性愛者の性愛倫理について指摘されてきた国家間関係と比較していく必要がある。