著者
上林 葵
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.1-17, 2019-08-01 (Released:2020-02-01)
参考文献数
10

関西方言には,断定辞ヤに類似した文法的振る舞いを見せる「ジャ」という形式が存在する。本稿では筆者の内省及び複数名への調査をもとに,ジャの形態・統語的特徴,機能的特徴及び現れやすい具体的な発話状況について考察した。その結果,ジャが聞き手の発話や態度など発話状況に関わる要素に対する,話し手のマイナス感情や評価を提示する働きを持つことを明らかにした。また,①発話状況に関わる要素が期待・欲求・想定・規範などに代表される話し手にとっての「望ましさ」から逸脱したとき,②マイナス感情・評価の対象に現場性を伴って接触したときという2つの状況下において,ジャが実現しやすくなることを述べた。歴史的に関西方言の断定辞がジャからヤへと交替したことはすでに知られているが,本稿ではその過程において,ジャにマイナス感情・評価の提示というモーダルな性格が残された可能性を指摘した。
著者
上林 葵 カンバヤシ アオイ Kanbayashi Aoi
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
vol.14, pp.53-66, 2016-03

本稿は、2015年度に京都府宮津市において実施した言語意識調査の報告を行うものである。調査では「自身のことばに対する認識」「関西人としての意識の有無」「近隣地域のことばに対する認識・評価」の3点を明らかにすることを試みた。その結果をまとめると以下のようになる。A) 宮津地区・日置地区のインフォーマントともに自身のことばをそれぞれの地区独自のことばであると認識する傾向にある。前者は[宮津弁]という認識を持つことで共通している一方、後者は自身のことばの呼び名に複数のバリエーションを持つ。B) 宮津地区・日置地区に共通して関西人としての意識を持っているインフォーマントが目立った。関西人であることを自身のアイデンティティとして強く感じている者から、宮津の地理的見地を踏まえて客観的に関西人であると判断した者などがおり、いくつかのレベルが認められた。C) 宮津市では養老ようろうや栗田くんだが、京丹後全体では舞鶴まいづるや加悦かや、峰山みねやまのことばに違いを感じるインフォーマントが宮津地区・日置地区を通して目立った。宮津市については出身地区によって、回答にやや異なりが見られた。