著者
野間 純平 ノマ ジュンペイ
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
no.16, pp.35-54, 2019-07

本稿は、大阪方言のノダ相当形式である「ネン」が、同じくノダ相当形式である「ンヤ」と比 べて意味的にどのように異なるかを「ネンナ」という形式を通して考察したものである。具体的には、「ネンナ」という形式を、「ネン」が「ンヤ」に置き換えられるかという観点で分類し、そこから「ンヤ」にはない「ネン」に固有の意味特徴を明らかにした。本稿で明らかにしたことは以下のとおりである。(a)「ネンナ」の持つ用法のうち、〈確認要求〉と〈把握〉は「ンヤナ」に置き換えることができ、〈認識共有〉と〈情報提示〉は「ンヤナ」に置き換えることができない。(b)「ンヤナ」に置き換えられない〈認識共有〉と〈情報提示〉の「ネンナ」には、「話し手の判断を介さない」「聞き手に一方的に伝える」という共通した意味特徴がある。「ンヤナ」に置き換えられる〈把握〉および〈確認要求〉の用法はこの特徴を欠いている。(c)「ンヤナ」にはなく「ネンナ」に固有の意味特徴は、文末の「ネン。」が持つ「ンヤ。」にはない固有の意味特徴とおおむね一致しており、ここから、少なくとも文末および「ナ」が続く環境においては、「話し手の判断を介さない」「聞き手に一方的に伝える」が「ネン」に固有の意味特徴であると考えられる。
著者
福居 亜耶 フクイ アヤ Fukui Aya
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
vol.13, pp.28-51, 2015-03

本稿では、京都府福知山市方言におけるテヤ敬語について、中年層女性の家族・親族内での会話を調査することで、以下のような運用ルールを提示した。A群:第三者待遇において(A):話し手にとって話題の人物が家族でない場合はテヤ敬語を使用する。(A-2):(A)が適用されないとき、話し手よりも話題の人物が年上の場合テヤ敬語を使用する。(A-3):(A-2)が適用されないとき、基本的にテヤ敬語は使用しない。(A-3´):(A-2)が適用されないとき、基本的にはテヤ敬語を使用しないが、話題の人物が聞き手よりも年上の場合はテヤ敬語を使用することがある。B群:対者待遇において(B):話し手にとって聞き手(=話題の人物)が家族である場合はテヤ敬語を使用しない。(B-2):(B)が適用されないとき、話し手よりも聞き手(=話題の人物)が年上の場合テヤ敬語を使用する。(B-3):(B-2)が適用されないとき、聞き手(=話題の人物)が話し手と非常に親しい場合はテヤ敬語を使用しない。(B-4):(B-3)が適用されないとき、テヤ敬語を使用する。
著者
酒井 雅史 サカイ マサシ
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
vol.10, pp.18-29, 2012-03

本稿では,筆者の内省をもとに兵庫県神戸市における動詞の活用形を用いた命令表現について記述を行なう。具体的には,以下の点を指摘する。(a)兵庫県神戸市方言においては,動詞の活用形を用いた命令表現としてテ形・命令形・連用形・意志形を用いる。(b)神戸市方言の命令表現においては,テ形は《依頼》しか表せず他の機能を持つことはない。命令形は《命令》の場合には使用できるが,聞き手に利益がある《聞き手利益命令》の場合には話し手と聞き手の間に特定の関係性がないと使用できない。意志形は《聞き手利益命令》でのみ使用可能となる。連用形は《命令》《聞き手利益命令》に加えて《勧め》の場合にも使用でき,命令表現においてもっとも広く使用できる形式である。(c)意志形を《聞き手利益命令》で使用できるのは,要求する行為が聞き手にとって利益のあることであり,緊急性を要し,話し手の眼前に聞き手がいる場合に限られるが,連用形の使用にはこれらの制限がない。(d)連用形も意志形と同様に《聞き手利益命令》として使用できるが,意志形が少し親しいソトの人物に対して使用すると不自然なのに対して,連用形は不自然な表現とはならない。また,《聞き手利益命令》において命令形を用いることができる場合は,親から子や先輩から後輩など話し手と聞き手の間に何らかの上下関係がある場合に限られる。
著者
白岩 広行 シライワ ヒロユキ
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
vol.8, pp.14-29, 2008-03

福島方言の文末詞ケは「思い出し」の意味しか持たない(§2. )。しかし、ノダにケが接続したノダッケという表現のなかに、ケの「思い出し」の意味にはそぐわないものが見られる( §3. )本稿では、このノダッケを、ひとまとまりの文末表現として分析した。その特徴は以下の通り。形態統語論的特徴 : 必ず平叙文の文末に生起する。また、いずれの文末詞とも共起しない(§4.)基本的意味 : 先行文脈に対する説明づけ、あるいは後の文脈の前置きとして、聞き手にとって未知と話し手が考えている情報を提示する(§5. 1.)。ノダッケは、ノダと同じく説明づけに関わる表現だが、ノダよりも使われる用法は限られている。つまり、ノダの様々な用法のうち、次の3つの条件を満たす場合にしか使えない(§5. 2.) 。①対人的な用法②前か後いずれかの文脈との関係づけが見られる③当該の情報が聞き手にとって未知である(と話し手が考えている)談話的な面では、話し手のターンを維持するために使われることがある(§5. 3. 1.)。また、聞き手に反発をするような場合、特殊な現れ方をする(§(5. 3.2)
著者
上林 葵 カンバヤシ アオイ Kanbayashi Aoi
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
vol.14, pp.53-66, 2016-03

本稿は、2015年度に京都府宮津市において実施した言語意識調査の報告を行うものである。調査では「自身のことばに対する認識」「関西人としての意識の有無」「近隣地域のことばに対する認識・評価」の3点を明らかにすることを試みた。その結果をまとめると以下のようになる。A) 宮津地区・日置地区のインフォーマントともに自身のことばをそれぞれの地区独自のことばであると認識する傾向にある。前者は[宮津弁]という認識を持つことで共通している一方、後者は自身のことばの呼び名に複数のバリエーションを持つ。B) 宮津地区・日置地区に共通して関西人としての意識を持っているインフォーマントが目立った。関西人であることを自身のアイデンティティとして強く感じている者から、宮津の地理的見地を踏まえて客観的に関西人であると判断した者などがおり、いくつかのレベルが認められた。C) 宮津市では養老ようろうや栗田くんだが、京丹後全体では舞鶴まいづるや加悦かや、峰山みねやまのことばに違いを感じるインフォーマントが宮津地区・日置地区を通して目立った。宮津市については出身地区によって、回答にやや異なりが見られた。
著者
福居 亜耶 フクイ アヤ Fukui Aya
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
vol.13, pp.28-51, 2015-03

本稿では、京都府福知山市方言におけるテヤ敬語について、中年層女性の家族・親族内での会話を調査することで、以下のような運用ルールを提示した。A群:第三者待遇において(A):話し手にとって話題の人物が家族でない場合はテヤ敬語を使用する。(A-2):(A)が適用されないとき、話し手よりも話題の人物が年上の場合テヤ敬語を使用する。(A-3):(A-2)が適用されないとき、基本的にテヤ敬語は使用しない。(A-3´):(A-2)が適用されないとき、基本的にはテヤ敬語を使用しないが、話題の人物が聞き手よりも年上の場合はテヤ敬語を使用することがある。B群:対者待遇において(B):話し手にとって聞き手(=話題の人物)が家族である場合はテヤ敬語を使用しない。(B-2):(B)が適用されないとき、話し手よりも聞き手(=話題の人物)が年上の場合テヤ敬語を使用する。(B-3):(B-2)が適用されないとき、聞き手(=話題の人物)が話し手と非常に親しい場合はテヤ敬語を使用しない。(B-4):(B-3)が適用されないとき、テヤ敬語を使用する。
著者
高木 千恵 タカギ チエ Takagi Chie
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
vol.7, pp.73-87, 2005-03

本稿では、大阪方言における述語の否定形式とそれを用いた否定疑問文を取り上げ、~コトナイという分析的な否定形式を中心に記述した。~コトナイは形容詞否定形式の一つだが、疑問形式と融合した~コトナイカは認識的モダリティとして固有の用法を持つ文末形式である。~コトナイカは、話し手にとって真偽が不明なことがらについての話し手の見込みを聞き手に伝え、話し手の判断の妥当性を聞き手に問うモダリティ形式であり、基本的に、話し手の認識を表す否定疑問文と置き換えることができる。否定疑問文はさまざまな用法を担っているが、~コトナイカはその中の一つの用法に特化したモダリティ形式であるということができる。また、「思う」の否定疑問形式にも~コトナイカに類似した用法がある。
著者
白岩 広行 シライワ ヒロユキ
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
vol.9, pp.14-29, 2011-01

本稿では、福島方言の問い返し疑問文が2種類のイントネーションパターンをとることを示し、音声的な特徴をふまえたうえで、イントネーションによる発話意図の違いを記述した。2つのパターンのうち、(問い返し以外の)疑問文一般でも使用されるものを「疑問汎用型」、問い返しの場合にのみ使われるものを「問い返し専用型」とすると、両パターンの音声的特徴(2節)基本的意味(3 .2節)は次のようにまとめられる。a.)疑問汎用型(-↘↗) 音声的特徴 : 一語文の場合は文頭、複数の語からなる文の場合は述語部の開始点から始まって文末の手前までの間に高くなり、そのあと文末で一度下がってから上昇調をとる。基本的意味 : 相手の発話そのものは理解したうえで、事実(現実世界のことがら)について改めて問い返していることを示す b.) 問い返し専用型(_↗) 音声的特徴 : 一語文の場合は文頭、複数の語からなる文の場合は述語部の開始点から、音が低いまま推移し、文末で上昇調をとる 基本的意味 : 相手の発話がそのままでは理解できず、相手の発した言語表現そのものについての、メタ言語的なレベルでの問い返しをおこなっていることを示す 上記の基本的意味に関連して、基本的に疑問汎用型の問い返し疑問文が間接話法的な性格を示すのに対し、問い返し専用型の問い返し疑問文は直接話法的な性格を示す(3.3 節)。
著者
平川 公子 ヒラカワ キミコ
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
vol.8, pp.116-131, 2008-03

本稿では福岡市方言における文末詞バイおよびタイについて以下の記述を行う。(a) バイ、タイはいずれも平叙文にのみ生起し(4.1)、ト、ゲナの後、ネ、ナの前の位置に生起可能なモダリティ形式である(4.2) 。(b)バイは、発話時において聞き手にとって新規である(と話し手が判断する)情報を提示する機能を持つ(5 .1 )。(c)タイは、発話時において聞き手にとって新規で、ある(と話し手が判断する)情報を、自己の知識へ確認・照会した上で提示する機能を持つ(5.2.1)。(d)バイとタイに共通するのは「聞き手には発話時において当該情報が無い」とする話し手の判断である(6.1)。(e)バイは発話時における新規情報を提示する以外の機能は持たないが、タイは提示する情報を話し手が自己の知識や記憶に照会・確認するという機能が付加されている(6.2) 。タイの様々な語用論的意味(5.2.2) はこのために生じる。
著者
坂井 美日 サカイ ミカ
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
no.11, pp.66-83, 2013-03

本論では、現代熊本市方言における主語マーカーの使い分けを記述し、以下の点を指摘する。①主語に立つ名詞句が人称名詞の場合は、述語の性質にかかわらず主語は全て「ガ」で表示される。人称名詞の階層におけるアラインメントは、典型的な対格主格型である。②主語に立つ名詞句が人称名詞以外の場合、述語の性質がガ/ノ表示を決定する要因となる。この場合、他動詞述語文と意志自動詞述語文の主語は「ガ」でマークされ、一方、非意志自動詞述語文と形容詞述語文の主語は「ノ」でマークされる。すなわち、活格的な性質を有する(但し他動詞目的語は「バ」という別表示であるため、「活格型」ではない)。③当方言では更に、敬語接辞やアスペクト辞を述語に付すことで「ガ」「ノ」の使用が変化する。その結果当方言は、一部の文法環境において、日本語としては希少な「三立型」のアラインメントを持つ。
著者
坂井 美日 Sakai Mika サカイ ミカ
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
no.10, pp.30-47, 2012-03

熊本市方言は,準体助詞として「ツ」と「ト」という二つの形式を持つ。本論では,この「ツ」と「ト」の違いを,形態音韻面,意味面,統語面から検討し,次のことを述べる。形態音韻面 : ・直前の用言が動詞連体形の場合,「ツ」は用いられない。・直前がタ形・形容詞の場合は「ツ」「ト」両者が現れうる。意味面 : ・「ツ」と「ト」が両方現れうる,すなわち二者が対立しうる環境においては,「ツ」と「ト」では意味解釈に違いが生じる。この際,「ツ」を用いた準体句は形状性(モノ・ヒト),「ト」を用いた準体句は作用性(コトガラ)の解釈となる。・しかし,機能語である「ツ」と「ト」自体に意味があるわけではない。統語面 : ・「ツ」と「ト」では,統語的には「ツ」の方が名詞と似た振舞をする。・一方「ト」は,名詞に置きかえられないコピュラや終助詞(「~ノダ」「~ノカ」)等にも用いることができ,より機能的に振舞う。・「ツ」=《モノ・ヒト》と「ト」=《コトガラ》という分布は,名詞性(指示性)の違いで捉えられる。このことで,コピュラや終助詞等における「ツ」と「ト」の違いも説明できる。
著者
高木 千恵 Takagi Chie タカギ チエ
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
no.17, pp.39-51, 2021-03

本稿では、大阪方言の禁止形に現れる二つのアクセントを取り上げてそれぞれの用法を記述し、旧形式の意味の変容と有標化という観点から両者の使い分けについて考察した。本稿で明らかになったのは次の点である;(a)禁止形のアクセントには、後ろから2 拍目にアクセントの下がり目のあるタイプ(-2 型)と後ろから3 拍目に下がり目のあるタイプ(-3 型)がある。ただし低起無核型の2 拍動詞は-3 型を欠き、高起有核型の2 拍動詞(オル)は-2 型を欠く。(b)先行研究の記述に照らすと、-2 型が新しい終止形と、-3 型が古い終止形との共通点をもっている。(c)禁止形1(-2 型)が[指示][違反矯正][確認的指示][非難]の用法をもつのに対して、禁止形2(-3 型)は[指示][違反矯正][非難]の用法をもち、怒りやいらだちといった話し手のマイナス感情が併せて表示される。また禁止形2 には行為指示対象(聞き手)が必須である。(d)アクセントにおいて古い終止形と共通点をもつ禁止形2 のもつマイナス感情表示は、その他の項目にみられる新形式の誕生と旧形式の意味変容と軌を一にする変化である。
著者
小田 佐智子 オダ サチコ Oda Sachiko
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
vol.14, pp.67-75, 2016-03

本稿では岐阜方言における原因・理由表現にみられるモンデを取り上げ、その形式的特徴と意味的特徴を記述した。モンデの特徴をまとめると以下のようになる。(1)モンデは、従属節に推量や当然性判断など、話し手の確信の度合いが強いモダリティを取ることはできず(§2.2)、主節は叙述文または依頼とのみ共起することができる(§2.3)。(2)モンデの基本的意味は、「話し手の主観によって事態の判断や主張を述べるものではなく、話し手の主観から切り離した事態の因果関係を説明するもの」である。(§3.1)(3)モンデは、話し手の意識の外で生じた事態の原因・理由を述べる形式であるため、話し手の意識や意志が介在していないことを押し出したいような言い訳や弁明、偶発的な出来事に対する弁明の場面において使用されやすい(§3.2)。
著者
平塚 雄亮 ヒラツカ ユウスケ Hiratsuka Yusuke
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
vol.9, pp.55-65, 2011-01

本稿では、福岡市若年層方言における引用や伝聞などを表すッテについて、標準語の「って」と対比しながら記述を行った。その結果明らかになったのは、以下の3点である。(a) ッテは伝聞の用法においては、ト(標準語のノダに相当する)に接続することはできない。文末詞はヨ・ネ・ゼ・サが共起できる(引用・伝聞の場合)。(b)ッテの基本的な用法は、襟準語の「って」と同じく引用と伝聞である。また、話し手との知識・認識のずれを明示する用法がある。ノダ文に接続するッテは文末詞的な用法をもち、ッテが接続した文が「一連の発話のうち、話し手の最も伝えたいことである」ことをマークする。また、「そうトッテ」という表現は、「開き手の認識との一致」を表す。(c)ノダ文に接続するッテの用法(最も伝えたいことをマークする)は、話し手をの知識・認識のずれを明示する用法が拡張したものであると考えられる。また、伝聞には非ノダ文を、最も伝えたいことをマークする用法にはノダ文を用いるという明晰化の働きも見られる。
著者
山口 華奈 ヤマグチ カナ Yamaguchi Kana
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
vol.13, pp.52-71, 2015-03

本稿は、和歌山市方言において、確認要求の機能を有するもののうち、文末表現「~シテ」を取り上げ、その意味・用法の記述を試みるものである。文末表現「~シテ」の形式的・意味的特徴は、次のようにまとめられる。(a)文末表現「~シテ」は、平叙文の文末に生起し、概して「ワシテ」という形式をとり、名詞相当の句や節に後接する場合にのみ「ヤシテ」という形式をとる。(b)文末表現「ワシテ」は、「ではないか」に共通する用法をもち、話し手の発話時と発話以前の間、あるいは話し手と聞き手の間に認識のずれがあり、話し手の発話時の認識を、認識すべき確定的なものとして提示する。(c)文末表現「ンヤシテ」は、聞き手の認識になく聞き手が知り得ない既定の事柄を伝達し、聞き手と共有していこうとする。(d)文末表現「~シテ」の「シテ」は、話し手の認識を発話の現場に引き出し、自分や聞き手との共有の認識領域にもってくるべく表出する。