著者
上田 大志
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本年度は、昨年度同様、注視している固視点を数百ミリ秒前に消すことにより、周辺視野に呈示される視覚刺激への運動反応が促進されるギャップ効果と呼ばれる現象を使い、「意識にのぼらない視覚刺激が行動に及ぼす影響」について検証した。昨年度の研究では、アモーダル補完による「物理的には消失するものの主観的には維持される固視点」を使用することで、ギャップ効果による運動反応促進には固視点の主観的消失が必要不可欠であることを明らかにした。そこで本年度は、昨年度の「見えていないのに在ると思う」に合わせ、「見えていないのに実際には在る」視覚刺激を使用し、ギャップ効果による運動反応促進における固視点の物理的消失の必要性を検証した。実験では、視覚刺激の物理的入力が維持された状態で意識に上らなくさせる連続フラッシュ抑制と呼ばれる知覚現象を利用し、「主観的には消失しているものの物理的には維持される固視点」を使用した。結果、眼球運動では、通常のギャップ効果の条件に比べ反応促進効果が減少し、固視点の物理的消失が必要不可欠であることが示された。一方、手の運動では、通常条件と同程度の反応促進効果が見られ、固視点の主観的消失の有無のみ影響することが示された(Experimental Brain Research誌掲載)。また本年度は、これまでの「知覚と運動」に、「高次認知機能」を加えたより一般的な視覚運動変換の理解を目指し、自分に対する視線の出現・消失による注視刺激の「意味的」変化によるその後の運動反応への影響についても検証した。結果、従来のような低次知覚によるギャップ効果が生じない条件であっても、顔・視線認知に関連する高次機能がその後の眼球運動反応に影響を与えることを明らかにした。このことは、顔・視線認知同様、ギャップ効果による眼球運動の反応促進が、潜在的かつ自動的なプロセスによって生じていることを示唆している(Attention, Perception, & Psychophysics誌掲載)。