- 著者
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上田 真世
- 出版者
- 大阪大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2008
昨年度、アヒル(水禽類)及びニワトリ(家禽類)各線維芽細胞に対するA/duck/HK/342/78(H5N2)感染実験において、ニワトリ細胞でのみ生じる進行性のアポトーシスの要因としてミトコンドリアの膜電位低下を明らかにした。これに基づき、今年度は膜電位低下の主要因とされる活性酸素の過剰産生ならびに細胞内Ca^<2+>濃度の変化に焦点をあて、ニワトリ細胞におけるアポトーシス誘導に関与するか検討した。ニワトリ細胞における活性酸素マーカーの発現はH5N2感染・非感染群間で大差は認められなかったが、抗酸化剤存在下において細胞生存率の回復が認められた。次に発育鶏卵を用い抗酸化剤処理・非処理両群にH5N2感染実験を行ったが、両群間で鶏卵平均死亡時間に変化は見られなかった。以上の結果より、H5N2感染時細胞単位では活性酸素の過剰産生がニワトリ細胞における進行性のアポトーシスに関与している可能性が示されたが、個体単位における病原性には活性酸素に加えさらなる因子の存在が示唆された。一方、細胞内Ca^<2+>濃度に関してはニワトリ細胞においてH5N2感染時顕著な濃度変化は認められず、Ca^<2+>キレート剤存在下においてもアポトーシスは進行した。これらの結果よりH5N2感染時のニワトリ細胞におけるアポトーシスにはCa^<2+>濃度変化は関与しないことが明らかとなった。アポトーシスに関与するウイルス因子として、昨年度組み換えウイルスを用い高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)のヘマグルチニン(HA)が重要であることを示したが、今年度はHPAIV-HAが細胞外から内へのCa^<2+>の流入を促す因子であり、その結果細胞内Ca^<2+>濃度の上昇をもたらしアポトーシスを誘導することを見出した。またHAと相互作用する宿主因子として小胞体シャペロン蛋白質であるGRP78を同定した。