著者
上田 護國
出版者
日本醸造協会
巻号頁・発行日
vol.115, no.2, pp.70-74, 2020 (Released:2020-09-04)
著者
上田 護國
出版者
日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.115, no.2, pp.70-74, 2020-02

近年,清酒の売上に占める特定名称酒の割合が増加傾向にあり,その結果蔵では多品種少量生産が常態化してきている。一方,近年,杜氏集団の後継者不足,酒造メーカーの零細化等により,酒造経験の比較的浅い社員杜氏やオーナー杜氏が増加している。ベテラン杜氏達は長い経験と卓越した技術を取得し,素晴らしい吟醸酒を醸出しているが,彼らと同じように習熟した技術を得るのは並大抵ではない。一般の吟醸麹造りは,揉み上げ時の水分が固定されず,麹の状貌を見て状況を判断し,手入れと積替え,掛け布等により品温と状貌をコントロールしながら製麹する。これは経験に裏付けられた高度な官能検査能力と技術を必要とすることを意味する。そこで,「誰にでも,簡単に,再現性よく造れる」をテーマに試行錯誤の結果,蒸米の吸水率を制御指針とする製麹(通称タライ麹,以下「上田流製麹」)技術の開発に至った。喜ばしいことに本製麹技術は,近年多くの蔵で検討していただいているが,中には基本的な考え方を誤解している例も散見されるようになってきた。ここでは上田流製麹を改めて解説すると共に,その効果を例示して技術の正しい普及を図ることとした。