著者
鎌田 八郎 中村 正斗 村井 勝 上田 靖子 大下 友子
出版者
独立行政法人農業技術研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

畜産の生産現場では、担い手の高齢化が進み、労働負担の軽減化が強く求められている。特に分娩は厳密な予定がたたず、深夜になった場合の分娩介護は重労働となっている。一方、分娩時の胎子排出メカニズムはこれまで精力的に研究されてきたが、胎子娩出後に不要となった胎盤の排出(後産)のメカニズムはほとんど理解されていなかった。そこで本研究では、胎盤剥離シグナルの同定とそれを応用した新規の分娩誘導法の開発を目的とした。これまでの報告から、胎盤の剥離には細胞間の接着を切断する酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の関与が推定されており、その生産母地が繊維芽細胞であることから、胎子胎盤から繊維芽細胞を調製してそのMMPを活性化する物質を探した。胎子娩出のシグナルはアラキドン酸の代謝物が主役であることからアラキドン酸代謝物に焦点をあてて検討したところ、従来知られたプロスタグランジン類ではなく、リポキシゲナーゼ代謝物であるオキソアラキドン酸に強いMMP活性化機能があることが判明した。分娩予定牛にプロスタグランジンを投与して分娩誘導すると、胎子は娩出されるが胎盤は排出されない(胎盤停滞)。これを対象区として、強いMMP活性化機能を示したオキソアラキドン酸を胎子娩出後に投与したところ胎盤の排出に成功した。その際の胎盤中MMPは正常分娩時と同様の挙動を示していた。以上からオキソアラキドン酸はこれまで知られていなかった胎盤剥離誘導シグナルであることが示された。本知見は胎盤停滞を伴わない分娩誘導技術及び胎盤停滞治療法の開発につながり、畜産生産現場の労働負担の軽減に大きく貢献すると期待される。