著者
中村 正斗 山田 豊 美齊津 康民
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.964-970, 1993
被引用文献数
2

同腹の繁殖雌豚を2種の飼養方式で3年間飼育し,発情と産子成績を比較した.12頭のランドレース×大ヨークシャーの雑種雌豚を育成期(平均体重>60kg)から5回の妊娠•分娩期を通じてストールで単飼または豚房内で3頭ずつ群飼した.各区に同腹豚を無作為に配置し,育成期から発情を毎日調べ,性成熟後2回目の発情および離乳後の初回発情に人工授精または自然交配を行なった.供試豚はすべて,同一の繁殖ステージには同一の飼料を個別給与した.初回発情時の日齢および体重,受胎時の日齢および体重,分娩時の日齢および分娩後の体重,産子数および離乳頭数,子豚の出生時体重および離乳時体重,離乳時の子豚の育成率および離乳後の発情再帰日数について初産から5産まで調べた.平均初回発情日齢は,群飼豚がストール飼育豚よりも24.5日早かった.初回発情から2回目の発情までの平均発情周期は,群飼豚(22.2日)がストール飼育豚(26.0日)よりも有意に短かった(P<0.05).初回交配時の平均体重は,ストール飼育豚(137.2kg)が群飼豚(123.8kg)よりも有意に重かった(P<0.05),平均産子数と離乳頭数は,群飼豚でそれぞれ9.6頭および8.7頭,ストール飼育豚でそれぞれ11.0頭および9.4頭であった.群飼豚の子豚の出生時の平均体重(1.55kg)はストール飼育豚のそれ(1.32kg)よりも有意に重かった(P<0.01).群飼豚の子豚の離乳時の平均体重(7.43kg)はストール飼育豚のそれ(6.37kg)よりも有意に重かった(P<0.01).群飼豚の子豚の離乳時の平均育成率(96%)はストール飼育豚のそれ(88%)よりも有意に高かった(P<0.05).群飼豚の離乳後の平均発情再帰日数(10.8日)はストール飼育豚のそれ(41.0日)よりも有意に短かった(P<0.01).ストール飼育豚では運動器障害と流産の発生が認められた.
著者
鎌田 八郎 中村 正斗 村井 勝 上田 靖子 大下 友子
出版者
独立行政法人農業技術研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

畜産の生産現場では、担い手の高齢化が進み、労働負担の軽減化が強く求められている。特に分娩は厳密な予定がたたず、深夜になった場合の分娩介護は重労働となっている。一方、分娩時の胎子排出メカニズムはこれまで精力的に研究されてきたが、胎子娩出後に不要となった胎盤の排出(後産)のメカニズムはほとんど理解されていなかった。そこで本研究では、胎盤剥離シグナルの同定とそれを応用した新規の分娩誘導法の開発を目的とした。これまでの報告から、胎盤の剥離には細胞間の接着を切断する酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の関与が推定されており、その生産母地が繊維芽細胞であることから、胎子胎盤から繊維芽細胞を調製してそのMMPを活性化する物質を探した。胎子娩出のシグナルはアラキドン酸の代謝物が主役であることからアラキドン酸代謝物に焦点をあてて検討したところ、従来知られたプロスタグランジン類ではなく、リポキシゲナーゼ代謝物であるオキソアラキドン酸に強いMMP活性化機能があることが判明した。分娩予定牛にプロスタグランジンを投与して分娩誘導すると、胎子は娩出されるが胎盤は排出されない(胎盤停滞)。これを対象区として、強いMMP活性化機能を示したオキソアラキドン酸を胎子娩出後に投与したところ胎盤の排出に成功した。その際の胎盤中MMPは正常分娩時と同様の挙動を示していた。以上からオキソアラキドン酸はこれまで知られていなかった胎盤剥離誘導シグナルであることが示された。本知見は胎盤停滞を伴わない分娩誘導技術及び胎盤停滞治療法の開発につながり、畜産生産現場の労働負担の軽減に大きく貢献すると期待される。