著者
坂江 千寿子 上見 幸司
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.68-74, 1997-09-08

本研究は、人々が脳死移植について考える際に、入手できる情報の-つである新聞を取り上げ、内容分析の手法を用いて近年の報道内容を明らかにする試みである。研究の対象は、見出し文に「脳死」と「臓器移植」の両者を含む(読売新聞社、1987年〜1995年、著作権交渉中の記事6件を除く)114件の記事とし、漢字語のソートプログラム(JSORT)を用いて(1)漢字語の経年変化、(2)特徴的な増減を示すキーワードの推移を明らかにした。次に、漢字語のみでは解釈に限界があるため、BGREPプログラムを用いてキーワードを含む文字列を検索し記事本文に遡って分析した。本研究では、キーワード「意思」を検索し、何を対象にした誰の意思がどのように言及されているかについて分析した。その結果、(1)「脳死体」や「忖度」などの特徴的な増減を示したキーワードを特定し、(2)「脳死体」や「脳死患者」などのように、生か死かの判断を迷わせるような造語の出現と、(3)「意思」の主語の多様性などを指摘することができた。そして、キーワードとしての「意思」の主体者が(4)本人から「家族あるいは遺族」に拡大し、また近年では、(5)「本人」の「意思」を「忖度」することの是非が報じられていることが判明した。