著者
柳原 良江
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.223-232, 2007-09-20
参考文献数
17
被引用文献数
2 or 0

欧米諸外国では1980年代より同性愛カップルが養子縁組をしたり、人工授精を経て妊娠・出産して得た子を育てる場合がみられており、近年わが国でも同様の事例が見られるようになってきた。本研究では、当事者への聞き取り調査を通じて、わが国での現状を把握するとともに、一般化する生殖医療がもたらす課題について検討する。調査協力者は子育てをしている女性同性愛者カップル2組であり、ともに人工授精を試み、1例は妊娠・出産したが、もう1例は妊娠には至らず、米国人のパートナーへ国際養子縁組を迎えている。彼女たちの子育ては、親族や地域の人々の支援を得ながら行われているが、それはわが国では、協力者たちが例外的存在として捉えられているためであり、同性愛者の子育ては、未だ不可視的な状態だと考えられる。本調査の結果は、わが国でも今後は、生殖と個人の性的状況との関わりを問うことの重要性を示すものとなった。
著者
長瀬 修
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.125-129, 1997-09-08
被引用文献数
2 or 0

ろう児への人工内耳手術が論争を呼んでいる。人工内耳手術とは内耳に小さな電極を挿入し、音を電気信号に変換、聴神経に直接、電気刺激を伝える不可逆的な手術である。ろう者の組織の多くは各国でろう児への人工内耳手術に反対する運動を繰り広げ、95年の世界ろう者会議は「ろう児に人工内耳手術を勧めない」と決議した。手話を確固たる言語として認識する動きと、ろう文化の主張が背景にある。日本でも93年の「Dプロ」の結成を契機にろう文化運動は上げ潮である。ろう児への人工内耳手術に対しては、(1)現技術レベルの人工内耳は中途半端であり、音声言語、手話言語共に身につかないという批判と、(2)聴者である親が本人の自己決定抜きで、ろう者を聴者に変えようとするのは許されないという倫理的な批判がある。ろう者としての独自の世界があることを、聴者の親に伝える努力が求められている。ろう者自身の組織から、ろう児の親への積極的な情報提供、相談の役割が期待される。
著者
菊井 和子 山口 三重子 渡邉 美千代 白岩 陽子
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.120-126, 2005-09-19

医療が宗教と乖離した今日でも、ホスピスでは宗教者がケアチームで重要な役割を担っているが、仏教僧侶の関与についての報告は少ない。本研究は仏教僧侶の終末期ケアへの参加状況について調査し、その現状と将来への展望を明らかにすることを目的とする。調査対象は中国地方真言宗青年会の僧侶で、29名中23名(79.3%)が回答した。約3分の2が何らかの形で終末期患者・家族に援助をした経験を持っていたが、彼らはそれを医療と関連のある活動とは認識していなかった。死については、仏教の教えを説くよりも現代社会に受け入れやすい言葉で助言をする者が多かった。今後の活動として、日頃から壇信徒と交流を持ち、相談相手になることに意欲を示していた。全人的ニーズに対処するには宗教的ケアは重要であり、特にグリーフケアは仏教僧侶に最も適した領域と考えられる。終末期ケアに関する僧侶の継続的な研修と並行して、社会も僧侶に活動の場を拓くことの必要性が示唆された。
著者
末永 恵子
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.52-59, 2009-09-22

「人体の不思議展」は、プラスティネーションという技術で作製された人間の死体の標本を有料で一般公開する展示である。本稿は、同展の倫理的問題点について考察することを目的とする。死体には尊厳が存するので、安易な利用は許されず、相当の目的と意義が認められる利用に限定されるべきである。同展は、教育的展示を謳っているものの、標本の展示方法に問題があり、かつ教育効果についても疑問である。中国における献体といわれる標本の由来にも不透明な部分が多い。そもそも日本では現行法によって無償の「献体」を展示商品とすることは、不可能である。よって、同展は日中間の法律の間隙をぬって開催されていることになる。研究・教育用に真に必要な遺体供給の条件を整えるためにも、提供者の厳密な意思確認や倫理的条件を明記した法律が不可欠である。このような法の構想のためにも、現行法の間隙をついて開催される同展の倫理的問題点を抽出すことは、必要な作業であろう。
著者
大桃 美穂
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.51-58, 2012-09-19

日本では、医療機関で死を迎える患者が増加し、医療者は従来以上に望ましい死'good death'を主題化して取り組む必要が生じてきた。長年の透析生活の末に終末期を迎える維持透析患者は、いくつかの点で終末期のがん患者とは異なる問題に直面している。最も深刻な問題は、現在行っていない治療、例えば人工呼吸器装着や心臓マッサージを行わないなど、DNR (do not resuscitate)の方針について意思を表明することだけではなく、透析という長年続けてきた治療・生活を変化もしくは中止するといった現行から「差し引く」治療法の選択を考えなければならない点である。本稿では、慢性期から終末期へと向かう維持透析患者とその家族にとって、あるべき死への準備教育'death education'と看取りケアについて考察する。死への準備教育'death education'とは、人生の最期にむけて自分らしく生きること、これを患者・家族・医療者が共にめざすとりくみである。この教育が緩和ケアとして、死にゆく人特有の苦悩や苦痛の軽減に作用することを期待したい。
著者
遠矢 和希
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.71-78, 2009-09-22
参考文献数
43

ART(Assisted Reproductive Technology)を利用できる成人の法的制限について、諸外国では議論になっている。性的マイノリテイの家族形成権について欧米ではそれぞれに法的対応をとっており、ARTを利用した性的マイノリティの挙児・育児は盛んである。親のセクシャリティと子どもの発達に関する研究においては性的マイノリテイの育児には問題がないとする結論が多いが、多数派の価値観からマイノリティを判断する限界もあるという。一方わが国における性的マイノリティの状況と法制度を鑑みても、同性カップルがARTにより挙児・育児に至る可能性のあるパターンは5つある。欧米の性的マイノリティの家族形成権の法整備は(1)宗教的・文化的問題、(2)子どもの福祉や健全な発達の問題、(3)国際政治的問題などによって各国で判断されていると推察され、日本でのARTに関する法整備においても性的マイノリティへの視点が必要であると思われる。
著者
小椋 宗一郎
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.207-215, 2007-09-20

ドイツでは、医学的に適応がある場合等を除き、中絶手術の少なくとも3日以前に「妊娠葛藤相談」を受けることが法的に義務付けられている。この相談に関しては少なくとも二つの問題が指摘されている。第一に、自発的対話を旨とする相談が法的に義務付けられているという問題がある(「強制としての相談」)。第二に、同相談は「〔胎児の〕生命保護」を目的とすると同時に、「〔相談後に女性たちが出産か中絶かの決断をすることについて〕結果を問わない」ものでなければならないとされる点について議論がある。本論文は、相談の現場に即してこれらの問題について考察する。ドイツのカウンセラーたちによると、実際、これらの問題は実務上の困難をもたらしている。しかしその困難は、カウンセラーと来談者による「率直さ」へ向けた努力によって乗り越えられうる。われわれはこの相談を、生命保護と同時に妊娠した女性たちの援助へ向けたドイツの人々による長期的な努力として理解することができる。
著者
大河原 良夫
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.169-177, 2006-09-25

法律が、患者の権利として、患者意思を尊重しその意に反する治療はできないとしているとき、患者はどの程度までの治療拒否ができるのか、生命に危険がある場合まで治療拒否ができるか。この問題は、フランスで最近まで未解決であった。2002年3月4日、患者の権利法が制定され、治療拒否権が新たな形で登場した。しかしその直後、これに抵抗するような形で、エホバの証人輸血拒否事件に関するコンセイユ・デタ2002年8月16日判決(命令)が、輸血断行は、説得など一定の要件を満した場合、自己決定権を侵害しないという判断を示した。これによって、同法制定以降も、患者の自己決定権は、「ハーフトーンの基本的自由」に留まるものとなったが、医業倫理法等との関係で、これらの規範抵触が、やはり医師を微妙な立場におくことに変わりはなく、2002年法は判例の流れを断絶しえなかった。しかし、フランス医事法(学)がこれまで積み上げてきた患者の諸権利を考慮するならば、この判決の射程は拡張されるべきでない。
著者
加藤 尚武
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.11-16, 1999-09-13
被引用文献数
3 or 0

日本国憲法13条の求める「個人としての尊重」「個人の尊厳」は、クローン人間を生むことを否定しているから、刑法によってそれを禁止すべきであるという意見を批判することが、本稿の目的である。核移植で加藤尚武のクローンを作れば、そのクローンは加藤尚武と年齢も生育環境も歴史的環境も異なる。オリジナル人間とクローン人間は完全に識別可能である。もしも遺伝的にDNAがひとしい人を生むことが、禁止の対象になるなら、当然、一卵生双子の出産も禁止すべきである。クローン人間禁止論者は、クローンとオリジナルが明確に識別可能でもDNAが同じなら個体性を侵害している、自然的な同一DNA個体(双子)の出生は違法ではないが、人為的に同一DNA個体(クローン)を生むことは違法であると主張する。
著者
土屋 敦
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.190-197, 2007-09-20

本稿の目的は、1960年代半ばから1970年代初頭にかけて全国地方自治体で展開された「不幸な子どもの生まれない運動」の内実及び、この「障害児」の出生抑制政策がこの時期興隆した社会構造的要因を明らかにすることを通じて、そこにこの時期日本社会における優生政策の再興隆の契機が存在したこと、そしてこの運動が日本の優生政策上の一つの転換点を画する運動として存在した事実を跡付けることを目的とする。また、同時期に、この政策が導入された社会的土壌及び「障害児」の出生抑制が「必要」とされた同時期の社会構造的要因を明らかにすることにある。
著者
鶴若 麻理 岡安 大仁
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.91-96, 2001-09-17
被引用文献数
2 or 0

近年、特にターミナルケアの分野で、スピリチュアルケアに関心が集まっている。「スピリチュアル」という概念が、わが国の文化や伝統の中で、どのように展開されていくのか、また患者の「スピリチュアリティ」を把握するために、日本での客観的な尺度を作成する必要があるなどの議論がなされている。しかしながら、それらの議論をより充実させるためには、まず、欧米のホスピスケア理念において、「スピリチュアル」という概念が、いかに展開されてきたのか、またどのようなスピリチュアルケアに関する研究がなされているのかを、改めて検討する必要があると考えられる。そこで本稿では、実際欧米では、ターミナルケアの領域を中心にして、どのようなスピリチュアルケアに関する研究が行われているのかを、文献を通して報告し、今後のわが国のスピリチュアルケア研究の一助とすることを目的とした。
著者
鶴若 麻理 岡安 大仁
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.58-63, 2000-09-13
被引用文献数
1 or 0

筆者(鶴若)が行ったチャプレンを中心としたインタビュー調査によると、わが国の末期がん患者に対するスピリチュアルケアは、一部のホスピスや病院において意欲的に取り組まれているが、必ずしも組織的・効果的に展開されているとは言えなかった。従って現状では医師や看護婦が、具体的支援を検討することが期待された。具体的支援を行うためには、まずスピリチュアル・ニーズがどのように表現されるのか検討する必要があろう。そこで、本稿では(1)日本死の臨床研究会年次大会の演題の推移から、我が国のスピリチュアルケアの概念の形成を分析した。(2)『看護学雑誌』(医学書院)および『がん看護』(南江堂)におけるスピリチュアルケアに関する論文を調べた。(3)筆者がホスピスボランティアとして関わった末期がん患者との対話から、スピリチュアル・ニーズとは具体的にどのように表現され、また身体的、社会的、心理・情緒的苦痛とどのように関連しているものなのかを検討した。
著者
小西 恵美子 デービス アンJ
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.84-91, 2000-09-13
被引用文献数
4 or 0

「死ぬ権利」とは、終末期の患者が、さらなる治療を拒否して死を早めることを自らの意思で決定できる権利をさす。「死ぬ義務」とは、終末期の患者や老人は、家族の負担や医療コスト等の社会的要因から、延命のための治療は拒否して死を早める義務があると感じることである。日本、欧米の生命倫理に関心をもつ看護婦、医師および生命倫理学者それぞれ121名、64名を対象に、この二つの概念に対する意識を調査した。結果、死ぬ権利は欧米は全員、日本も大多数が支持した。死ぬ義務については、欧米の支持率は高かったが、日本は支持しない人のほうが多かった。自由記述からしばしば出現したテーマは、「自己決定」、「命の意味」、「公正」、「患者と家族との愛」である。それらの意味の両群の相違点と類似点を探索し、終末医療の問題をかかえる日本と欧米が相互に学ぶ必要を示唆した。
著者
羽鳥 明
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.3-8, 1993-07-20

キリスト者としての自己体験と信仰に照らし、また自己を含めての近年接触し見聞、体験した、死を目前にした老患者が表した肉体生命の最後の瞬発力の著しい力に注目させられた事例を3つあげ、それを踏まえて、聖書に示された倫理を、新約聖書「ローマ人への手紙」12章2節を手がかりとして、倫理の根本としての神のみこころ神のみこころの3つのポイント(1)神が人類の祝福のために設定された絶対的善悪の規範(2)神が受け入れ、喜ばれるプロセスとしての愛と祈りと忍耐のケアとしての倫理(3)神のみこころとしての、永遠のいのちの希望に基づく完全待望の倫理
著者
森岡 正博
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.4-10, 1999-09-13
被引用文献数
1 or 0

1999年に心臓移植が再開された。31年ぶりのことである。しかし、脳死と臓器移植の生命倫理については、学問的に研究すべきことが残されている。そのうちのいくつかを検討する。たとえば(1)脳死の人の臓器は誰の所有物なのか、(2)私的所有とはそもそもどういうことなのか、(3)脳死の身体をめぐるマクロとミクロの政治がいかに機能しているか、(4)家族の前に横たわる脳死の人とはどのような存在者なのか、(5)脳死とエコロジーはどういう関係性にあるのか、などの問題である。
著者
土屋 敦
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.190-197, 2007-09-20 (Released:2017-04-27)
参考文献数
10

本稿の目的は、1960年代半ばから1970年代初頭にかけて全国地方自治体で展開された「不幸な子どもの生まれない運動」の内実及び、この「障害児」の出生抑制政策がこの時期興隆した社会構造的要因を明らかにすることを通じて、そこにこの時期日本社会における優生政策の再興隆の契機が存在したこと、そしてこの運動が日本の優生政策上の一つの転換点を画する運動として存在した事実を跡付けることを目的とする。また、同時期に、この政策が導入された社会的土壌及び「障害児」の出生抑制が「必要」とされた同時期の社会構造的要因を明らかにすることにある。
著者
田村 充子
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.194-201, 2005-09-19

自己決定とは、過去、医学が優生思想に発する非人道的行為に利用されてきた歴史に対して、わたしたちの存在を真にまもろうとするなかで獲得されてきた原理である。この医療倫理の原則としての原理は、重要であると同時に、それを過度に強調することで多くの問題を生むものともいえる。自己決定の原理は、排除の論理として用いられたり、医師の責任放棄のために利用されたり、病者の過度に個我的な自己決定を補強するために用いられてはならない。マルティン・ブーバーは、人間は関係性のなかに生きる存在である、と論じている。関係に生きる私たち病者の固有の生が、医療の現場において真に守られるために、この自己決定の原理はどのように捉えられてゆくべきか。この問いに対し、本稿では、病む者の視点から、自律性と関係性に着眼しながら、医療の場における自己決定についての考察を試みた。
著者
坂江 千寿子 上見 幸司
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.68-74, 1997-09-08

本研究は、人々が脳死移植について考える際に、入手できる情報の-つである新聞を取り上げ、内容分析の手法を用いて近年の報道内容を明らかにする試みである。研究の対象は、見出し文に「脳死」と「臓器移植」の両者を含む(読売新聞社、1987年〜1995年、著作権交渉中の記事6件を除く)114件の記事とし、漢字語のソートプログラム(JSORT)を用いて(1)漢字語の経年変化、(2)特徴的な増減を示すキーワードの推移を明らかにした。次に、漢字語のみでは解釈に限界があるため、BGREPプログラムを用いてキーワードを含む文字列を検索し記事本文に遡って分析した。本研究では、キーワード「意思」を検索し、何を対象にした誰の意思がどのように言及されているかについて分析した。その結果、(1)「脳死体」や「忖度」などの特徴的な増減を示したキーワードを特定し、(2)「脳死体」や「脳死患者」などのように、生か死かの判断を迷わせるような造語の出現と、(3)「意思」の主語の多様性などを指摘することができた。そして、キーワードとしての「意思」の主体者が(4)本人から「家族あるいは遺族」に拡大し、また近年では、(5)「本人」の「意思」を「忖度」することの是非が報じられていることが判明した。
著者
本田 まり
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.159-167, 2005-09-19
被引用文献数
1 or 0

配偶者死亡後の生殖に関する問題は、生殖補助医療技術が発達した国々において共通に見られる。フランスでは、1994年に制定されたいわゆる生命倫理三法を改正する作業においてもこれが採り上げられ、2004年の生命倫理法に反映された。わが国においては判例上、夫死亡後にその冷凍精子により出生していた子の、死後認知の可否が問題となっている。本稿は、わが国における生殖補助医療関連の法整備にあたり、配偶者死亡後の「医学的に援助された生殖」について検討することを目的とする。フランスの状況について人工授精の事例と体外受精のそれとを区別した上で、法と倫理諮問機関との対立を概観し、法を分析する中から「公序」の内容を探る。さらに、わが国の立法における死後生殖に関する判断基準に対してフランス法が示唆するところを考察する。既に出生した子については現在のところ、その福祉のために、フランスにおいては嫡出性が、わが国においては死後認知が認められているといえよう。
著者
島薗 進
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.19-27, 2005-09-19
被引用文献数
2 or 0

医学が治療という任務を超えて、心身の能力を増進させたり、性格を変化させたりすることは許されるのか。許されるとしても限度があるとすれば、どのような限度だろうか。増進的介入をめぐるこうした論議の中で重要な意義をもつものに、軽度のうつ気分の改善に効果があるプロザックなどのSSRI(選択的セロトニン取り込み阻害薬)をめぐるものがある。気分操作という面でSSRIが切り開いた新たな医薬の機能を解説し、心理療法と対比しつつその使用を巧みに弁護した書物にピーター・クレイマーの『プロザックに耳を傾ける』がある。その弁論とレオン・カスが座長を務めるアメリカの大統領諮問生命倫理委員会の批判論を対比し、増進的介入の限度を論じる際の根拠となる生命の価値の概念について考察する。自律ではなく、痛みを免れられず、また与えられたものによってこそ生きる人間の条件を知り、受け入れることの価値について論じる。