- 著者
-
伊藤 暢章
正村 哲也
- 出版者
- 日本生命倫理学会
- 雑誌
- 生命倫理 (ISSN:13434063)
- 巻号頁・発行日
- vol.30, no.1, pp.30-39, 2020-09-26 (Released:2021-08-01)
- 参考文献数
- 30
本稿は,法律家の立場から輸血拒否患者に対する診療拒否の問題点を提起するものである。無断輸血訴訟最高裁判決( 2000年) 以降,患者の意思尊重とは逆行するケースがあることが懸念される。いわゆる相対的無輸血の方針の名の下に,輸血同意書への署名がなければ,輸血拒否患者の診療自体を一律に避ける病院がある。こうした対応は,患者の自己決定権を侵害する上,医師法の根拠たる憲法25条の生存権保障の趣旨に反し,応招義務違反となる可能性が高い。令和元年12月25日付で発出された厚生労働省通知の指針からすれば,診療時間内に病状の深刻な輸血拒否患者から診療を求められた場合に診療拒否が正当化されるのは,事実上診療が不可能といえる場合に限られる。医師は診療を拒否する代わりにどのような対応をすべきか,併せて提言する。