著者
上野 幹憲
出版者
熊本大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-04-25

後天性免疫不全症候群(エイズ)はヒト免疫不全ウイルス(HIV)が免疫細胞に感染することにより,免疫細胞を破壊して免疫不全を起こす疾患である。本邦ではHIV感染者1.9万人,世界では2017年現在で3,690万人に昇る。現在では,逆転写酵素阻害剤の発見,その後の新薬の開発により治療が可能になった。しかしながら,エイズを根治する治療法は未だ確立されていない。本研究では,新たな治療薬の開発のため,抗HIV活性を有する海藻由来生理活性物質の探索を行った。市販のアオサ,コンブ,ヒジキ,ノリをサンプルとし,水抽出(水溶性画分)とエタノール抽出(脂溶性画分)をそれぞれ抽出した。その後,HIV-1 (R9)とTZM-bl細胞を用いて抗HIV-1活性を検討した。水溶性画分では,アオサ,コンブ,ヒジキにおいてHIV-1の初期感染を有意に抑制した。脂溶性画分において,コンブのみ初期感染を抑制した。これまでの報告により海藻由来多糖類であるフコイダンは抗HIV-1活性を有することから,海藻由来多糖類であるアスコフィラン,アルギン酸,フコイダン,ポルフィランの抗HIV-1活性を比較検討した。アスコフィラン及びフコイダンではHIV-1 (R9およびJR-FL)の初期感染を強く阻害した。一方で,アルギン酸,ポルフィランは弱い抗HIV-1活性を示した。しかしながら,HIV-1感染細胞内ウイルス量への影響が無かったことから,これら多糖類はHIV-1の初期感染を抑制すると考えられた。さらに,硫酸基を持つ化合物が血中のアルブミン(BSA)により抗HIV-1活性が阻害された報告より,10%FBSおよび50%FBS存在下でHIV-1初期感染を検討した。アスコフィラン,フコイダンの抗HIV-1活性が50%FBSにおいて低下したことから,これら海藻由来多糖類の抗ウイルス活性は非特異的であると考えられた。