著者
下ヶ橋 雅樹 佐藤 将 迫田 章義
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.21, no.5, pp.379-390, 2008-09-30 (Released:2010-06-28)
参考文献数
25
被引用文献数
3

バイオマス利活用への関心が高まる中,特に近年,エネルギー作物を利用したバイオ燃料生産システムが注目されている。エネルギー作物は食糧生産との競合を避けるため,現状で農地として利用されていない耕作放棄地などへの作付けが望まれる。さらには,耕作放棄地への作物の再作付けは農地復興の上で高い期待も寄せられる。しかしながら一方で,エネルギー作物生産に伴う過剰な施肥等により環境負荷を増加させる可能性も否定できない。したがってエネルギー作物を利用したバイオマス利活用システムを長期継続的なものとするためには,その作付けが与える環境影響も含めた包括的な観点から持続可能性を評価し設計する必要がある。 本研究ではこの持続可能性の指標として,エネルギー作物の耕作放棄地への再作付けに伴う水環境への窒素負荷と,バイオエタノール生産にいたるまでのシステムのエネルギー収支の2点を取り上げ,その評価をもととした設計手法の確立を試みた。バイオ燃料生産システムとしては多収穫性稲からのバイオエタノール生産に注目した。施肥方法と収穫量及び環境負荷の関係の評価には,稲作における稲の生育と農地の水および窒素の循環をシミュレートする数理モデルを構築し,このモデルを用いてある環境条件下で各種肥料を施用した場合の耕作放棄地での飼料用の多収穫性稲の収穫量と水環境中への窒素負荷を推算した。また上記に関連して得られた多収穫性稲の生産に係るエネルギー消費とともに,バイオエタノール生産におけるエネルギー消費を推算した。最終的には,施肥方法や生産するエタノールの純度の違いが水環境への窒素負荷とエネルギー収量に与える影響を同時に評価する方法を提案した。これらの一連の手法は合理的なエネルギー作物利活用システム設計手法として有用である。