著者
安藤 崇仁 下尾 嘉昭 中里 政可 吉田 久博
出版者
日本歯科薬物療法学会
雑誌
歯科薬物療法 (ISSN:02881012)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.53-61, 2012-08-01 (Released:2012-09-06)
参考文献数
13

歯科治療では浸潤麻酔が頻繁に行われている.しかし浸潤麻酔は患者に強い痛みを与えるため,前処置として表面麻酔が用いられており,口腔粘膜停滞性が悪く,麻酔効果も良好とは言い難い.そこで,表面麻酔薬塗布部の横に円筒形綿花を置き,さらに下口唇を術者が前方へ引き出すことで比較的簡便に表面麻酔薬の口腔粘膜停滞性を向上させる方法(改良法)を考案し,表面麻酔薬を塗布した後に口唇を閉じる方法(従来法)との間で試験を行った.複数の表面麻酔製剤を用い,表面麻酔効果の非使用部位への発現および浸潤麻酔時の除痛効果を検討した.対象は健常成人男女10名とし,試験部位は下顎前歯部歯槽粘膜とした.作用時間1分とし,注射針刺入時と薬液注入時の疼痛をVisual Analogue Scaleで評価した.その結果,改良法では,従来法よりも薬液注入時に良好な除痛効果を示した.また,従来法では1分以内に非使用部位で表面麻酔効果が認められたのに対し,改良法では認められなかった.これらの成績は,表面麻酔薬の口腔粘膜停滞性を向上させることにより副作用が軽減できること,また今回提示した改良法が薬剤の口腔粘膜停滞性向上に有効なことを示唆している.