著者
下斗米 秀之
出版者
社会経済史学会
雑誌
社会経済史学 (ISSN:00380113)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.15-35, 2014

本稿では,アメリカ移民政策を画期する1924年移民法について,有力な経営者団体である全国産業協議委員会(NICB)が1923年12月に開催した移民会議に焦点を当て,企業経営者らの移民政策への取り組みを検討し,彼らが移民法策定における重要な担い手であったことを明らかにする。NICBは,移民に関する詳細かつ広範な実地調査を通じて,労働省(移民局)と国務省(領事館)との連携不足を,移民行政の弱点として指摘した。移民制限の本格的導入を進めるアメリカ連邦議会に対して,NICBはビジネス界以外の諸利害の主張を調整し,恒久的な移民政策案を進言することを目的として移民会議を開催した。移民会議には,移民制限に賛否両論の立場をとる,各種の経営者団体や労働組合,社会諸団体,政府関係者など多様な移民利害関係者が参加した。会議を受けてNICBが採択した決議案は,連邦議会の公聴会において,ビジネス界に限定されない公的な影響力を獲得していった。その結果,NICBが提案した在外アメリカ領事発行の査証に基づく移民管理制度は,1924年移民法の柱の1つとして結実したのである。