著者
下曽山 香織
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.C-142_2-C-142_2, 2019

<p>【はじめに、目的】</p><p>近年、理学療法士が産業保健専門職として、労働者の総合的な健康状態の向上に寄与するための活動が求められている。産業理学療法による、労働者安全と健康確保への可能性について検討する。</p><p> </p><p>【方法】</p><p>労働者数50名以下の規模の事業所労働者25名を対象とした。対象は建築関連7名、保険会社5名、Web関連5名、着物販売8名である。労働時の作業活動状況を視察後、作業環境管理と健康管理を中心に介入を行った。介入前後、紙面アンケートを実施した。</p><p> </p><p>【結果】</p><p>事業主及び労働者は、「産業理学療法」について「全く知らない」としながらも、「産業理学療法について知りたい」と回答した。実際に事業所内にて労働環境、作業内容の確認を行った所、従事内容により健康不安が異なった。建築関連業務では、大工部門は季節により変化する気温の下、高所や不安定な足場での立位作業が主であり、「脱水になった」「足場から落ちて怪我をした事がある」「上を向く時は肩が痛く、中腰の時は腰が痛くなる」という回答が挙がった。これに対し、機材・工具等と座面の距離や高さを調整し、連続労働による負担を軽減するため、定期的な休息と水分補給の時間を設けた。また、肩及び腰部周囲のストレッチを提案した。設計部門及び保険会社とWeb関連会社は、長時間座位姿勢による作業が多く、「肩周辺の違和感や疼痛がある」と12名が答えた。また、女性勤労者から「出産後で身体的な変化が起こり、仕事を続けることに不安がある」との声が挙がった。これに対し、パソコンや機材等と椅子の距離や高さ、座位姿勢の確認と調整・修正を行った。同時に、肩及び腰部周囲のストレッチを提案した。出産後の不安について、個別面談内で身体状況を聞き取り、出産に伴う変化の説明と対応、セルフマッサージ等の指導を実施した。事業主へも出産に伴う身体・精神的変化への理解を促した。着物販売会社は、姿勢による身体的不調はないが、労働者は65歳以上の高齢者であり、健康不安を抱えながらも、「これからも仕事を続けたい」と希望していた。これに対し、体操を導入し、運動習慣を身に着けると同時に、コミュニケーションの機会を設け、互いに勤労意欲を高めることを提案した。また、休憩時間の間食内容を一部変更するよう促した。介入後アンケートにおいて、全ての対象者が、産業理学療法士の存在について「必要性があると思う」と答え、継続した介入を求める声が挙がった。</p><p> </p><p>【結論】</p><p>労働安全衛生法遵守及び労働者の健康管理は経営の躍進にも繋がる。高齢化する労働者への、身体状況に応じた労働支援や疾病後復職時の再発防止等の支援も重要である。また、女性活躍推進法が定められた今日、出産前後を含めたケアも必要性を増し、産業保健専門職として、理学療法士による労働者安全と健康確保への貢献度は高く、継続した支援の必要性があると考える。</p><p> </p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は、ヘルシンキ宣言に沿い実施した。全ての対象者に研究目的、内容説明を口頭及び書面にて行い、同意を得た上で研究を進めた。また、本結果の公開についての許可を得ている。</p>