著者
下田 卓朗*
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.95-98, 1988-03-15

心因性の場面緘黙(Elective mutism)は,ある特定の場面では貝のように口を閉ざし,人に対しての言語コミュニケーションをいっさい拒否する。その要因は古くから研究され,統計的には母子依存が強く,過敏,臆病,恥ずかしがりの傾向にある子どもなどに多く見られると言われている。最近の出現状況としては村本(1983)が北海道上川管内の小学校・中学校を調査して0.0369%の出現率であったことを報告している。このように数としてはまことに少数であるが,言語発達の著しい幼児期・児童期に言語コミュニケーションを持たないことは,その子の社会性の発達を考える上で憂慮されなければならない。本研究では2人の子どもの事例をとおして,緘黙児を理解するにはどのような方法でアプローチすればよいかを検討することにした。そして,それにはまずなによりも,これまで関わってきた人たちの証言から理解していくという方法と,もうひとつには,対象児との"遊び"というふれあいをとおして理解していくという2つの面から進めていくのが適切であると考えた。そうした方法で対象児をフォローし,形成要因,その理解という形で緘黙児を考察することによって"遊び"の中および"言葉"の中に秘められている子ども理解への鍵をつかむに至った。