著者
下野 敏見
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
no.12, pp.p101-119, 1995-06

トカラ列島から奄美・沖縄の琉球文化圏の墓制は、亀の甲墓や破風墓、積石墓、崖下葬、その他、いろんなタイプがある。墓制によって、また地域によって先祖祭りの仕方もちがってくる。 これらの地域の広い意味の祖霊祭はいったいどのような経過をへて現在に至っているのだろうか。 琉球における墓制の基本的な流れは遺棄的風葬墓と洗骨改葬墓の二つがある。この二つに伴う祖霊祭は当然異なる。前者は葬ったきり墓地へは二度と行かぬのだが、その代り年に一度、家でありったけのごちそうをして、歓待する。しかし、トカラ列島では家の外に近い縁側の隅でこれを行う。このことは神窓の外の庭で行うアイヌの先祖祭りのシヌラッパとよく似ている。 祖霊には、浮遊霊と遠祖(高祖)霊、近祖霊があるが、正月や盆の正祖霊は近祖霊が主対象であり、高祖霊は、正月や節替りの来訪神として現れる。浮遊霊は邪霊であり、病災をもたらしたりするので、正月や盆には門松や水棚でちょっとごちそうして退散してもらう。種子島やトカラ列島の門松での祭りがそれを証している。 琉球の夏正月とヤマト文化圏の冬正月に伴う祖霊祭の比較や夏正月の一日目から七日目までの第一週目の正月と、ヤマトの第一週目とそれに続いての十五日までの第二週目が加わった正月との比較も重要であるようだ。