著者
内出 崇彦 堀川 晴央 中井 未里 松下 レイケン 重松 紀生 安藤 亮輔 今西 和俊
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-05-19

2016年熊本・大分地震活動は2016年4月14日の夜(日本時間)に始まり、布田川断層帯、日奈久断層帯や火山地帯に及んだ。最初の大地震(イベント #1)は4月14日21時25分に発生したMw 6.2の地震で、その後、15日の0時03分にMw 6.0の地震(イベント #2)が起こった。最大の地震(イベント #3)はMw 7.0で、16日1時25分に発生した。個別の地震の強震動のみならず、長引く大地震、中規模地震によって、住民は苦しめられている。地震活動は、布田川断層帯・日奈久断層帯、阿蘇北部地域、別府・由布院地域と、3つの離れた場所で活発になった。本研究では、以下の問題に取り組んだ。ひとつは、なぜ断層が1つの大地震でなく、3つの別々の大地震で破壊されたのかということである。もうひとつは、なぜ地震活動に空白域が見られるかという問題である。 まず、本地震活動の震源の再決定をhypoDDプログラム(Waldhause and Ellsworth, 2000)を用いて行った。その結果、布田川・日奈久の両断層帯に対応する地下の複雑な断層形状が明らかとなり、北西傾斜の断層とほぼ垂直な断層が見つかった。イベント #1の震源はほぼ垂直な断層に、イベント #2の震源は傾斜した断層にあることがわかった。イベント #3の断層は別の垂直な断層にあり、傾斜した断層とぶつかる場所に近いことがわかった。これは発震機構の初動解にほぼ対応する。おそらく、断層形状が急激に変わるところで破壊伝播が食い止められ、それと同時に次の地震の開始にも寄与しているものと考えられる。これによって、3つの大地震が次々と起こるという結果になったと考えられる。 布田川断層と阿蘇北部の間の地震活動の空白域(「阿蘇ギャップ」と呼ぶ)はイベント #3によって破壊されたということが、国立研究開発法人 防災科学技術研究所(防災科研)の基盤強震観測網(KiK-net)のデータを用いた断層すべりインバージョン解析によって明らかになった。おそらく、イベント #3によって阿蘇ギャップが、余震が起こる余力もなくなるほど完全に破壊されたためであると考えられる。これは阿蘇山の構造に関連したものであると考えられるが、これ以上の議論のためには、詳しい構造モデルやその結果の断層挙動を調べる必要がある。 由布院では動的誘発地震が発生したことが、防災科研の強震観測網(K-NET)とKiK-netの地震波形データにハイパスフィルタをかけたデータを見ることによってわかった。動的誘発地震はよく火山地帯で発生することが知られている(例えば、Hill et al., 1993)。16 Hzのハイパスフィルタをかけた地震波形の振幅を、近くで発生したMw 5.1の地震(2016年4月16日7時11分)のものと比べることで、誘発された地震の規模をM 6台半ば程度であると見積もった。これは、合成開口レーダー「だいち2号(ALOS-2)」による干渉画像で見られる変形の長さや、イベント #3が発生した直後に地震活動が活発化した地域の長さとも調和的である。地震の動的誘発によって、由布院と阿蘇北部との間には、結果として空白域が生じたものである。 われわれのデータ解析によって、2016年熊本・大分地震活動の奇妙な振る舞いを引き起こしたメカニズムが明らかになったが、まだ多くの問題が残っている。どのようにして複雑な断層が入ったのか、阿蘇ギャップと阿蘇山との関係といった問題である。この地震によって火山活動がどのような影響を受けるかという点も注目すべきである。地震や火山による災害の推定を改善するためにも、これらの研究は重要である。 謝辞本研究では、気象庁一元化処理地震カタログの検測値を使用した。検測値には、気象庁、防災科研、九州大学が運用する地震観測点のデータを含んでいる。また、防災科研の高感度地震観測網(Hi-net)、KiK-net、K-NETの地震波形データ、F-netのモーメントテンソルカタログを使用した。Global CMTプロジェクトによるモーメントテンソルカタログも使用した。
著者
今西 和俊 内出 崇彦 椎名 高裕 松下 レイケン 中井 未里
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.23-40, 2021-03-30 (Released:2021-04-14)
参考文献数
45
被引用文献数
1

中国地域の地殻内応力マップを作成するため,過去12年間にわたるマグニチュード1.5以上の地震の発震機構解を決定した.気象庁一元化カタログもコンパイルし,10 kmメッシュの応力マップとして纏めた.小さな地震まで解析して発震機構解データを増やしたことで,先行研究よりも応力場の空間分解能を格段に高くすることができた.得られた応力マップから,この地域は東西圧縮の横ずれ場に卓越しているが,島根県・鳥取県の日本海側になると応力方位が時計回りに約20°回転して西北西−東南東方向を示すようになる様子が詳しくわかるようになった.応力マップをもとに活断層の活動性について評価を行ったところ,地震調査研究推進本部 地震調査委員会(2016)が評価対象とした中国地域の30の活断層のうち,現在の応力場,一般的な摩擦係数のもとで再活動する条件を満たしているのは28あることがわかった.残りの2つの活断層は現在の応力場では動きにくく,再活動するためには,異常間隙水圧の発生や隣接する活断層の破壊に伴う応力変化でトリガーされるなどの外的要因が必要になると考えられる.
著者
今西 和俊 内出 崇彦 大谷 真紀子 松下 レイケン 中井 未里
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.273-298, 2019-06-28 (Released:2019-07-06)
参考文献数
59
被引用文献数
7

関東地域の地殻応力マップを作成するため,過去14 年間にわたるマグニチュード1.5以上の地震の発震機構解を決定した.気象庁一元化カタログや我々の先行研究の結果もコンパイルし,10 kmメッシュの応力マップとして纏めた.小さな地震まで解析して発震機構解データを増やしたことで,先行研究よりも応力場の空白域が減少し,さらに応力場の空間分解能を格段に高くすることができた.得られた応力マップは非常に複雑な様相を示しており,最大水平圧縮応力方位(SHmax)が急変する場所があること,伊豆半島から北部に向けてSHmaxが時計回りに回転すること,数十kmスケールの複数の応力区が確認できること,太平洋沿岸域は正断層場が卓越するなどの特徴が明らかになった.これらの特徴は,この地域のテクトニクスの理解や将来の地震リスクを評価する上で重要な情報である.