- 著者
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原 英俊
久田 健一郎
- 出版者
- 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
- 雑誌
- 地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
- 巻号頁・発行日
- vol.72, no.5, pp.447-458, 2021-12-02 (Released:2021-12-04)
- 参考文献数
- 40
- 被引用文献数
-
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関東山地東縁部に分布する蛇紋岩のクロムスピネル化学組成について報告を行う.この地域の蛇紋岩は,1)三波川変成岩類(古武ノ山蛇紋岩),2)御荷鉾緑色岩類,3)秩父帯付加コンプレックス(駒高蛇紋岩)と3つの地質体の分布域に認められる.クロムスピネルの化学組成の検討は,Cr–Al–Fe3+の関係,Cr# = Cr/(Cr+Al)原子比,Mg# = Mg/(Mg+Fe2+)原子比,YFe = Fe3+/(Cr+Al+Fe3+)原子比及びTiO2 wt%を用い行った.Cr#,Mg#及びにTiO2 wt%着目すると,三波川変成岩類に伴う古武ノ山蛇紋岩のクロムスピネルについては,Cr#とMg#は,それぞれ0.49~0.50及び0.56~0.60の狭い組成範囲に集中する.TiO2は0.04 wt%以下を示す.御荷鉾緑色岩類中の蛇紋岩のクロムスピネルでは,Cr#とMg#はそれぞれ0.33~0.66及び0.01~0.38と相対的に広い組成範囲を示し,両者には負の相関が認められる.TiO2は3.6~13.3 wt%を示す.またMg#やFe3+含有量などから,クロムスピネルは変質及び変成作用の影響を受け,初生的な化学組成を保持していないと考えられる.秩父帯付加コンプレックス中の駒高蛇紋岩のクロムスピネルは,Cr#が0.37~0.49,Mg#が0.63~0.66と狭い組成範囲を示し,またTiO2は0.4 wt%以下である.駒高蛇紋岩のクロムスピネルは,古武ノ山蛇紋岩のクロムスピネルとよく似た化学組成を示す.既存のデータによると,駒高蛇紋岩と古武ノ山蛇紋岩のクロムスピネルは,黒瀬川帯東方延長と考えられる蛇紋岩(山中白亜系南縁,名栗断層,木呂子メランジュ)のクロムスピネルより低いCr#と高いMg#を特徴とする.