著者
山元 孝広
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.1-16, 2017-03-10 (Released:2017-03-17)
参考文献数
36
被引用文献数
2 8

大山火山は山陰地方に位置する大型のデイサイト質成層火山である.この火山は約6万年前の大山倉吉降下火砕堆積物(DKP)に代表されるような日本列島沿いに大規模な火砕物を降下させる噴火を更新世に度々起こしたことで知られている.大山火山の既存研究には層序学的な問題や評価手法上の問題が残されているため,本研究では噴火履歴を定量的に見直した.まず,層序学的問題では,最新期の噴火を弥山溶岩ドームの形成とするもの鈷峰溶岩ドームの形成とする異なる文献が存在した.新たに実施した放射性炭素年代測定の結果は,弥山噴火 が28.6千年前,三鈷峰噴火が20.8千年前となり,後者が最新期の噴出物であることが確実になった.次の問題は,須藤ほか(2007)のデータベースに記載された大山火山起源降下火砕堆積物の体積評価手法である.この手法では既存文献の堆積物等層厚線を図学的に書き直すことで体積を求めているが,実際には分布する遠方の火砕物を無視しており,計測された体積は相当な過小評価になっている.そのため,降下火砕堆積物の体積はLegros(2000)や他の手法を用いて再計測し直している.今回の計測値 を用いて作成した積算マグマ噴出量階段図では,10万年前頃からマグマ噴出率が大きくなる傾向が認められ,その中でDKPが発生したように見ることが出来る.
著者
中野 俊 古川 竜太
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.60, no.7-8, pp.395-405, 2009-08-05 (Released:2013-08-05)
参考文献数
29
被引用文献数
3 3

東西約2.1 km,南北約3.3 km,標高792 m を有する北硫黄島は伊豆・小笠原弧,火山(硫黄)列島最北端の火山島である.不整合関係をもとに古期火山及び新期火山に区分されるが,岩質・岩相に大きな変化はなく,いずれも玄武岩質の溶岩・火砕岩が累重する成層火山体で,山体の浸食が著しい.海食崖では,多くは厚さ2 m以内の多数の放射状岩脈が貫き,167本を数える.玄武岩はSiO2=47.3-51.2 wt.% であるが,そのほか安山岩質の岩脈(SiO2=58.6 wt.%)も認められた.化学組成上いずれもlow-Kないしmedium-K系列に属する.
著者
山元 孝広
出版者
産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.163-175, 2017-08-18 (Released:2017-08-23)
参考文献数
12
被引用文献数
2

この地質ガイドは,2016年11月に開催された噴火準備過程の岩石学的解析に関する国際ワークショップの伊豆大島巡検のために作成されたものである.見学地点では,1986年噴出物,三原山火砕丘,南海岸の1421?年噴出物,1.7千年前のカルデラ形成期噴出物,先カルデラ期のテフラ層や,2013年ラハールが観察できる.
著者
岡崎 智鶴子 松枝 大治 金井 豊 三田 直樹 青木 正博 乙幡 康之
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.66, no.7-8, pp.169-178, 2015-11-18 (Released:2016-01-19)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

北海道の然別(しかりべつ)地域で採取されたオパール転石の鉱物学 的特性並びに化学組成を予察的に調査した.熱水活動を示唆する産状を明らかにするとともに,オパールが赤色・緑色・オレンジ色・黄色・青色などの鮮やかな蛍光色を呈すること,転石類に金,銀,水銀,ヒ素,アンチモン,テルルなどが地殻平均よりも高濃度に含まれる部分もあることなどを明らかにした.
著者
山元 孝広
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3-4, pp.117-132, 2007-08-31 (Released:2014-05-22)
参考文献数
34
被引用文献数
2 4

火山フロントから60 kmの背弧域にある新潟県飯士火山の層序を見直し,海洋酸素同位体ステージ 7 (MIS7)に噴出した爆発的噴火産物を新たに見いだした.この堆積物はカミングトン閃石含有斜方輝石普通角閃石デイサイトを本質物に含む残留角礫相・塊状軽石流相・成層火砕サージ相からなり,越後湯沢火砕流堆積物と命名した.本堆積物のフィッション・トラック年代の測定結果は 0.21 ± 0.07 Ma であった.また,構成物の特徴と層序的位置から,この堆積物が関東北部で記載されていたプリニー式降下堆積物,真岡軽石の給源相と判断され,これを飯士真岡テフラと再定義した.飯士真岡テフラの上位の溶岩及び下位のテフラからの既報放射年代値も考慮すると,飯士真岡テフラの噴火年代は 0.22 ~ 0.23 Ma に絞り込める.更に,真岡軽石を含むとされた茨城県大洗の見和層中部の堆積相と構成物組成を検討した結果,見和層中部は従来考えられていたような MIS6 の低海面期の堆積物ではなく,MIS7.3 ~ 7.1 の潮流口‐河川堆積物からなることを明らかにした.
著者
金井 豊
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11-12, pp.145-155, 2014-12-26 (Released:2015-02-07)
参考文献数
20

物質循環のトレーサーとしての地球科学的知見を得ると同時に,福島第一原子力発電所事故後の地域住民の不安感の払拭にも貢献するため,産業技術総合研究所地質調査総合センター(GSJ)においてエアロゾル中の放射性核種の観測を2013年も継続して行った.前報告(本誌,vol.63(3/4) p.107-118,及びvol.64(5/6), p.139-150)に引き続き2013年1月から2013年12月までの観測データを報告する.放射性Cs同位体のエアロゾル濃度は,2013年は3月頃に幾分高まったが,4月以降は幾分低下傾向を示した.2012年も同様に4月頃より低下しており,北よりの風から南よりの風に変わり降雨の日が多くなった気象条件の変化が変動因子の一つと考えられた.2012年以降は原発からの影響よりも観測点周辺に沈積した粒子の再飛散と移動による影響因子が相対的に重要と考えられ,Cs-137濃度とCs-137/Pb-210比との関係が再飛散を示唆する有効なパラメータの一つとなる可能性があると考えられた.
著者
伊藤 剛 中村 佳博
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.383-396, 2021-10-13 (Released:2021-10-20)
参考文献数
33
被引用文献数
2 3

栃木県足利市名草には,足利岩体と呼ばれる黒雲母花崗閃緑岩が分布する.本論では,この黒雲母花崗閃緑岩とその周辺のジュラ紀付加体足尾テレーン構成岩類の記載を行う.黒雲母花崗閃緑岩は,等粒状組織を示す.主要構成鉱物は石英,斜長石,カリ長石,黒雲母である.周辺の足尾テレーンの構成岩類である泥岩やチャートは,黒雲母花崗閃緑岩の貫入によって明瞭な接触変成作用を被り変成泥岩や変成チャートとなっている.また,足利岩体から1.5 km以上離れた地点のチャートから,放散虫化石が得られた.1試料からはPseudoristola sp.やArchaeospongoprunum sp.が得られており,その年代は前期ジュラ紀のプリンスバッキアン期~トアルシアン期前期を示す.また,別の1試料からは,主にジュラ紀から白亜紀に産出する放散虫である閉球状ナッセラリアが得られた.炭質物を多く含む泥質岩を対象に炭質物温度計を利用した変成温度推定を試みたところ,岩体の北縁部と南縁部の2試料からそれぞれ385 °C及び513 °Cの変成温度が得られた.足利岩体の南北で変成温度が大きく異なっており,岩体の貫入角度の違いによる影響が考えられる.また,足利岩体から南西に約1 km離れた試料から291 ± 15 °Cの変成温度が得られたのに対し,足利岩体から北西に1.3 km以上離れた試料からは,より高温の362 ± 16 °Cの変成温度が得られた.地下に伏在する岩体や既に削剥されて現存しない岩体の存在が示唆される.
著者
伊藤 剛 鈴木 紀毅 指田 勝男
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.359-370, 2021-10-13 (Released:2021-10-20)
参考文献数
54
被引用文献数
2 3

本論では,主に群馬県みどり市大間々町に分布する足尾帯ジュラ紀付加体大間々コンプレックスから得られた放散虫化石及び有孔虫の産出を報告する.チャートからはグアダルピアン世~ローピンジアン世(中期~後期ペルム紀)・中期~後期三畳紀・ジュラ紀の放散虫が,珪質泥岩からは前期及び中期ジュラ紀の放散虫が産出した.また,石灰岩からはシスウラリアン世~グアダルピアン世(前期~中期ペルム紀)のフズリナと小型有孔虫が産出した.
著者
野田 篤
出版者
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Geological Survey of Japan
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.131-140, 2017-06-05 (Released:2017-06-08)
参考文献数
22
被引用文献数
5 9

本稿は,U–Pb年代データの計算・可視化のために新しく開発したスクリプト(UPbplot.py)の使用方法と使用例及び数学的背景についての解説である.このスクリプトは,U–Pb年代値の1次元または2次元の加重平均,標準(Wetherill)及び Tera–Wasserburg コンコーディア図におけるコンコーディア年代・コンコーディア曲線とのインターセプト年代を求めるための関数を含んでおり,それらの計算結果やコンコーディア図・棒グラフ・ヒストグラムなどのグラフを出力することができる.
著者
長 秋雄 国松 直 金川 忠 藤井 真希 横山 幸也 小川 浩司 田仲 正弘
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.60, no.7-8, pp.413-447, 2009-08-05 (Released:2013-08-05)
参考文献数
36
被引用文献数
2

初期地圧は,地下岩盤開発における地下構造物の建設・維持の安全性に必要な情報として,これまで測定されてきている.しかし,過去に実施された測定結果は非常に貴重なデータにも関わらず,データベース的な意味でそれらを収集整理した文献は見当たらない. 本論文では,過去に公表された75 論文に掲載された初期地圧測定結果について,初期地圧の値とともに初期地圧状態の考察において必要と思われる項目(例えば,測定位置の被り深さ,岩種など)を収集・整理した.また,可能な限り測定位置の応力状態が理解できるように,公表されたデータから三次元主応力とそれらの方向余弦・6 応力成分・水平面内主応力・鉛直応力等を計算し,データベースとしての視点のもとに一覧表形式で表示した. 収録データをもとに,初期地圧と被り深さとの関係,初期地圧と測定標高との関係,初期地圧と岩級との関係などについて,岩種を区分(堆積岩,火成岩,変成岩)して検討を行った.
著者
伊藤 剛
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.143-192, 2022-11-01 (Released:2022-11-04)
参考文献数
158

足尾山地南西部「桐生及足利」地域には,足尾帯に属するジュラ紀付加体が広く分布する.同地域内のジュラ紀付加体は,黒保根–桐生コンプレックス,大間々コンプレックス,葛生コンプレックス,行道山コンプレックスの各構造層序単元からなる.また,足利市名草周辺では,後期白亜紀の花崗閃緑岩からなる足利岩体が貫入している.本案内書では,付加体の特徴的な岩相や層序が観察できる露頭やルートとして14地点を紹介する.
著者
伊藤 剛 武藤 俊 宇都宮 正志
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.93-101, 2022-10-26 (Released:2022-10-29)
参考文献数
65
被引用文献数
1

房総半島の上総層群の下部更新統東日笠層に挟在する礫岩中のチャート礫から,放散虫及びコノドントが産出した.放散虫(Praemesosaturnalis sp. cf. P. heilongjiangensis)とコノドント(Mockina sp.)の同定に基づくと,このチャート礫は後期三畳紀(中期~後期ノーリアン期)の年代を示す.本チャート礫は当時後背地に分布していたジュラ紀付加体に由来すると考えられる.
著者
田辺 晋 石原 与四郎
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.201-213, 2020-07-31 (Released:2020-08-07)
参考文献数
50
被引用文献数
4 5

東京湾の湾岸部を含む東京低地南部における5,767本のボーリング柱状図から,沖積層の基底深度を読み取り,クリキング法による空間補間を行うことで,沖積層の基盤地形を復元した.東京低地南部では,現在の荒川に沿って,古東京川開析谷が南北方向に縦断しており,その両岸には海洋酸素同位体ステージ(MIS) 5aとMIS 3,最終氷期最盛期(LGM)の前半に形成されたと考えられる3段の埋没段丘が分布する.古東京川開析谷の左岸と右岸の埋没段丘は,それぞれ行徳開析谷と古神田川開析谷によって開析される.行徳開析谷と古神田川開析谷の基底には沖積層基底礫層(BG)が認められず,礫による被覆効果が無かったために,LGMにかけた海水準低下に伴った河川の下刻による起伏地形が顕在化したと考えられる.
著者
伊藤 剛 中村 和也 日野原 達哉 栗原 敏之
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.345-358, 2021-10-13 (Released:2021-10-20)
参考文献数
46
被引用文献数
5

本論では,足尾山地鳴神山東方に分布する足尾帯ジュラ紀付加体の大間々コンプレックス及び黒保根–桐生コンプレックスから産出した放散虫を報告する.三畳紀放散虫及びコノドント片が大間々コンプレックスのチャートから産出した.中期ジュラ紀のバッジョシアン期及びバトニアン前期の放散虫が大間々コンプレックスと黒保根–桐生コンプレックスの泥岩から得られた.先行研究で両コンプレックスから報告された中では,泥岩に含まれるバッジョシアン期の放散虫が最も若い記録であった.従って,本研究で報告したバトニアン階下部の泥岩は,より若い記録となる.
著者
伊藤 剛
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.287-324, 2021-10-13 (Released:2021-10-20)
参考文献数
199
被引用文献数
5

足尾山地には足尾帯ジュラ紀付加体が分布する.このジュラ紀付加体は,黒保根–桐生コンプレックス・大間々コンプレックス・葛生コンプレックス・行道山コンプレックスの4コンプレックスからなる.本論では,5万分の1地質図幅「桐生及足利」地域の足尾帯ジュラ紀付加体の42試料から新たに産出した放散虫について報告する.ペルム紀放散虫は,行道山コンプレックスのチャート9試料から産出した.三畳紀放散虫は,葛生コンプレックスのチャート4試料から産出した.また,ジュラ紀放散虫は,黒保根– 桐生コンプレックスの珪質泥岩1 試料,葛生コンプレックスのチャート2試料,葛生コンプレックスの珪質泥岩4試料,葛生コンプレックスの泥岩2試料及び行道山コンプレックスの泥岩1 試料から産出した.加えて,足尾山地ジュラ紀付加体におけるこれまでの化石産出とその年代についてとりまとめた.これらを踏まえ,各コンプレックスの海洋プレート層序を復元した.
著者
伊藤 剛
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.201-285, 2021-10-13 (Released:2021-10-20)
参考文献数
260
被引用文献数
5

足尾山地には足尾帯に属するジュラ紀付加体が分布する.5万分の1地質図幅「桐生及足利」の調査結果及び周辺地域の先行研究に基づき,足尾帯ジュラ紀付加体の岩相・層序・化石年代・地質構造を総括する.足尾山地のジュラ紀付加体は,黒保根– 桐生コンプレックス・大間々コンプレックス・葛生コンプレックス・行道山コンプレックス(新称)の4つのコンプレックスに区分される.黒保根– 桐生コンプレックスは破断相から整然相を示し,泥岩とチャートを主体とし,珪質粘土岩を含む.また,玄武岩類・炭酸塩岩類・珪質泥岩・砂岩・泥質混在岩を伴う.泥岩に劈開が発達することで特徴づけられる.本コンプレックスは上部と下部に区分される.大間々コンプレックスは破断相から混在相を示し,玄武岩類・チャート・泥岩を主体とし,炭酸塩岩類・珪質泥岩・砂岩・泥質混在岩を伴う.本コンプレックスは上部と下部に区分され,泥質混在岩は上部で卓越する.葛生コンプレックスはユニット1・ユニット2・ユニット3に区分され,ユニット1及びユニット3はチャート・珪質泥岩・泥岩・砂岩泥岩互層・砂岩が順に累重するチャート– 砕屑岩シーケンスの整然相を主体とする.ユニット2は,玄武岩類と炭酸塩岩類からなり,礫岩・珪質泥岩・泥岩を伴う.行道山コンプレックスは混在相を示し,泥質混在岩及びチャートを主体として,珪質泥岩・泥岩・砂岩を伴う.コンプレックス境界として3条の断層を認めた:桐生川断層(黒保根– 桐生コンプレックスと大間々コンプレックスの境界)・閑馬断層(新称:黒保根– 桐生コンプレックスと葛生コンプレックスの境界)・大岩断層(新称:葛生コンプレックスと行道山コンプレックスの境界).地質構造としては,北東– 南西に伸びる軸跡を持つ複数の褶曲(梅田向斜・飛駒背斜・葛生向斜など)によって特徴づけられる.泥岩の放散虫年代に基づくそれぞれのコンプレックスの付加年代については,大間々コンプレックス及び行道山コンプレックスが中期ジュラ紀の中期以降,黒保根– 桐生コンプレックス及び葛生コンプレックスのユニット2が中期ジュラ紀の後期以降,葛生コンプレックスのユニット1及びユニット3が後期ジュラ紀の前期以降である.美濃帯ジュラ紀付加体の地質体と比較すると,黒保根– 桐生コンプレックスは那比コンプレックスや島々コンプレックスに対比可能である.大間々コンプレックスと葛生コンプレックスは,それぞれ舟伏山コンプレックス・白骨コンプレックスと上麻生コンプレックス・沢渡コンプレックスに対比できる.行道山コンプレックスについては,ペルム系チャートを含む点などでは久瀬コンプレックスと類似する.しかし久瀬コンプレックスが玄武岩類や炭酸塩岩類を含むのに対し,行道山コンプレックスはこれらを欠く.
著者
原 英俊 久田 健一郎
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.447-458, 2021-12-02 (Released:2021-12-04)
参考文献数
40
被引用文献数
1

関東山地東縁部に分布する蛇紋岩のクロムスピネル化学組成について報告を行う.この地域の蛇紋岩は,1)三波川変成岩類(古武ノ山蛇紋岩),2)御荷鉾緑色岩類,3)秩父帯付加コンプレックス(駒高蛇紋岩)と3つの地質体の分布域に認められる.クロムスピネルの化学組成の検討は,Cr–Al–Fe3+の関係,Cr# = Cr/(Cr+Al)原子比,Mg# = Mg/(Mg+Fe2+)原子比,YFe = Fe3+/(Cr+Al+Fe3+)原子比及びTiO2 wt%を用い行った.Cr#,Mg#及びにTiO2 wt%着目すると,三波川変成岩類に伴う古武ノ山蛇紋岩のクロムスピネルについては,Cr#とMg#は,それぞれ0.49~0.50及び0.56~0.60の狭い組成範囲に集中する.TiO2は0.04 wt%以下を示す.御荷鉾緑色岩類中の蛇紋岩のクロムスピネルでは,Cr#とMg#はそれぞれ0.33~0.66及び0.01~0.38と相対的に広い組成範囲を示し,両者には負の相関が認められる.TiO2は3.6~13.3 wt%を示す.またMg#やFe3+含有量などから,クロムスピネルは変質及び変成作用の影響を受け,初生的な化学組成を保持していないと考えられる.秩父帯付加コンプレックス中の駒高蛇紋岩のクロムスピネルは,Cr#が0.37~0.49,Mg#が0.63~0.66と狭い組成範囲を示し,またTiO2は0.4 wt%以下である.駒高蛇紋岩のクロムスピネルは,古武ノ山蛇紋岩のクロムスピネルとよく似た化学組成を示す.既存のデータによると,駒高蛇紋岩と古武ノ山蛇紋岩のクロムスピネルは,黒瀬川帯東方延長と考えられる蛇紋岩(山中白亜系南縁,名栗断層,木呂子メランジュ)のクロムスピネルより低いCr#と高いMg#を特徴とする.
著者
山元 孝広
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9-10, pp.323-340, 2003-12-22 (Released:2014-12-27)
参考文献数
33
被引用文献数
17 24

沼沢火山は福島県の西部,火山フロントの背後50 kmにある活火山である.本研究では噴出物層序と噴火年代を再検討し,噴出量の時間積算図を新たに作成した.本火山の噴出物層序は,約11万年前の尻吹峠火砕堆積物及び芝原降下堆積物,約7万年前の木冷沢溶岩,約4.5万年前の水沼火砕堆積物と約4万年前の惣山溶岩,約2万年前の沼御前火砕堆積物及び前山溶岩,紀元前3400年頃の沼沢湖火砕堆積物からなる.沼沢火山の総マグマ噴出量は約5 DRE km3であるが,前半6万年間で約1 DRE km3のマグマ噴出量であったものが,後半5万年間で残りの約4 DRE km3のマグマが噴出している.沼沢火山のマグマ噴出率の上昇は,給源でのマグマ生産率の上昇と対応しているものとみられる.
著者
猪狩 俊一郎
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.445-469, 2001-12-25 (Released:2015-03-21)
参考文献数
64
被引用文献数
5 5

これまでにほとんど測定例の無いネオベンタンを含む日本の天然ガスの軽質炭化水素組成を測定した.エタン/プロパン比ネオベンタン/イソペンタン比ネオベンタン/イソブタン比の対数聞には直線関係が観察された.この関係は水素引き抜きによる炭化水素の分解によるものと説明された. 移動に伴う,軽質炭化水素の分別作用に対する岩石種の効果について研究を行った.種々の岩石や,鉱物を充填したカラムを用いたガスクロマトグラフィーにより,それぞれの炭化水素の保持時間を測定した.メタン,エタン,プロパン,イソブタン,n-ブタン,イソペンタン,n-ペンタンについて測定を行った.層間水を持つ粘土鉱物,及びゼオライトを用いた場合に分別が観察された.それぞれの炭化水素の保持時間の順番は粘土鉱物やゼオライトの種類に依存した.また鉱物の空焼き時間の増加とともに分別は大きくなり,空焼きなしでは,非常に小さい分別が観察されるのみだった.これらのことは,分別には粘土鉱物やゼオライトの水が抜けた層間や細孔が重要であり鉱物が水和している通常の地下条件下では粘土鉱物やゼオライトによる,炭化水素の分別は重要でない事が明らかになった. 日本の水溶性ガス田の天然ガスのメタンの炭素同位体比を測定した.その結果,これまで一般に水溶性天然ガスは微生物起源と考えられてきたが熱分解起源のものも存在することが明らかになった. 秋田・新潟の油田ガスのメタン・エタン・プロパンの炭素同位体比を測定した.エタンの炭素同位体比とプロパンの炭素同位体比の聞には強い相関が観察された.この相関は速度論的に説明可能だった.一方メタンとエタンの炭素同位体比の聞には弱い相関が観察されるのみだ、った.これは微生物起源ガスの混入の影響と推定された.さらにこれらの同位体比を用いることにより,熱分解ガスと微生物起源ガスの混合率を計算することができ秋田・新潟の油田ガスはほとんどが両者の混合ガスであることが明らかになった.