著者
中井 英雄 齊藤 愼
出版者
近畿大学経済学会
雑誌
生駒経済論叢 (ISSN:13488686)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.269-321, 2013-11

[概要] 第1にカナダ平衡交付金の歴史は, 「制度項目別」の頑健性という視点から, 誕生期の標準税方式(1957~66年度), 発展期の代表的税制方式(1967~2006年度), 成熟期の新定式配分(2007年度以降)の3期間に区分できる。第2に人口1人当たり実際支出の最高・最低倍率は, 各州の規模の経済(人口)と広域の不経済(面積)のバランスで, 1.24倍と小さい格差であったから, 単段階の税源調整制度が可能であった。第3に全国平均税率の標準税収と税率の異なる実際税収との対比によって, 1人当たり実際支出が高いケベックでは, 所得税を超過課税し, 産油州のアルバータは, 天然資源の収入で一般売上税を課税していないことが明らかにできた。そして1人当たり標準税収の「都市化による逓増傾向」は, 高度成長から低成長下で鈍化するため, オンタリオ不交付の前提が, 崩壊するのである。第4に1999年度以降のオンタリオ不況で, 交付金総額の対GDP比がそれまでの1%前後から, 2003年度0.7%までに急落したのは, 総額の半分を占めるケベックへの交付金と2つの大規模州というカナダ固有の特徴が, 制度項目の「中位5州平均のワナ」にはまった結果である。しかし最後に, カナダの連邦政府は, 簡素な税源調整制度を維持しながら, 各州も, 1人当たり実際支出が他の州に比べて高いときには, 州の所得税の超過課税で限界責任を発揮し, 交付金総額の安定性に挑戦しているのである。 [Abstract] First of all, the history of the Equalization payments can be divided to the three periods of standard tax systems, from 1957-58 to 1966-67, representative tax systems from 1967-68 to 2006-07, and a new formula from 2007-08 to 2012-13. Second, the simplest revenue arrangement system has been maintained when compared to the system in Germany. The ratio of the highest per capita expenditure of a province to the lowest is just 1.24 times because of the balance of each province between scale economies of higher population and diseconomies of wider area. Quebec had been financing higher per capita expenditures with a higher rate of income tax and Albert had not introduced a general sales tax for the natural resource revenues. This was clarified by comparing provincial "revenue yield" based on the national average tax rate with "revenue base" of each provincial tax rate. Third, although the per capita provincial fiscal capacity is increasing in the province withhigher populations, Ontario's non-receiving province changed to a receiving province in 2009-10 due to low economic growth in Canada. Fourth, the recession in Ontario caused a decline in the ratio of total amount of the Equalization payments to GDP from 1% in 1999-2000 to 0.7% in 2003-04. This was due to the trap of so-called per capita revenue yield of five provinces. Finally, both the federal government and provinces have challenged the stable total amount of the Equalization payments with a simple revenue arrangement system.[目次] I.単段階の簡素な税源調整制度と新しい3期間区分, II.代表的税制とオンタリオ不交付の前提 1.制度項目の頑健性と条項のV字型変遷 (1)誕生期の標準税方式と単段階の税源調整制度 (2)発展期以降の代表的税制方式の頑健性 (3)成熟期の新定式配分と財政調整法の条項数のV字型変遷 2.最終算定と特例措置後の平衡交付金の推移 (1)天然資源に揺れる平均基準の改正 (2)中位5州平均と特例措置 (3)総額の半分を占めるケベックへの交付金 3.オンタリオ不交付の前提とその崩壊 (1)上位2州平均によるオンタリオ不交付の始まり (2)中位5州平均によるオンタリオ不交付の前提の堅持 (3)天然資源50%算入によるオンタリオ不交付の前提の放棄, III.税源調整制度の前提条件と交付金総額の不安定性 1.人口に関する規模の経済と広域の不経済のバランス (1)人口1人当たり「実際支出」の州間格差 (2)高い実際支出の「小規模・中域」と「中規模・中域」州 (3)低い実際支出の「小規模・狭域」と「大規模・広域」州 2.税率操作権の行使と州税の「都市化による逓増傾向」の鈍化 (1)5項目別実際税収の推移 (2)ケベックの超過課税とアルバータの軽減措置 (3)州税の「都市化による逓増傾向」の鈍化 3.交付金総額の急減と中位5州平均のワナ (1)算定交付金のオンタリオとケベックの2州モデル (2)推定式の基本構造とアルバータ効果の有無 (3)中位5州平均とオンタリオ不況による交付金総額の急減, IV.簡素な算定方式による総額安定化への挑戦 [補論I.1]1957~1961年度「誕生期」前半の標準税方式と安定化交付金 [補論I.2]1965年度の「誕生期」後半の選択方式 [補論II.1]1967~2006年度「発展期」の石油ショックとその対応 [補論II.2]「発展期」の上限・下限交付金の特例措置[注記] 本稿は、齊藤愼教授(大阪学院大学)との共同報告(自治総合センター「地方分権に関する基本問題についての調査研究会」(座長: 堀場勇夫教授), 2013年2月22日)をまとめたものである。
著者
中井 英雄 齊藤 愼
出版者
近畿大学経済学会
雑誌
生駒経済論叢 (ISSN:13488686)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.27-95, 2011-07

カナダ10州の名称は, NL:ニューファンドランド・アンド・ラブラドル州, PE:プリンス・エドワード・アイランド州, NS:ノヴァ・スコシア州, NB:ニュー・ブランズウィック州, QE:ケベック州, ON:オンタリオ州, MB:マニトバ州, SK:サスカチュワン州, AB:アルバータ州, BC:ブリティッシュ・コロンビア州で, ドル表示はカナダ・ドルである。[目次] I.「補完的」制度論アプローチ, II.2007年度の平衡交付金改革: 基礎資料から見た制度変化 1.カナダ連邦・州間財政調整法および規則と沖合協定 (1)財政調整法と規則の特徴, (2)平衡交付金の本則, (3)沖合協定による旧制度の選択, (4)連邦・州間財政調整規則 2.平衡交付金と沖合相殺交付金の予算・決算の推移 (1)平衡交付金総額の推移, (2)平衡交付金の州間配分の変化, (3)NSとNL州の沖合相殺交付金 3.平衡交付金の算定方法: 2011年度『算定資料』 (1)3年加重平均の財政力, (2)天然資源50%とゼロ算入の最大交付金[選択I] (3)財政力キャップ: 平衡化後財政力の交付州平均[選択II], (4)平衡交付金の総額調整[選択III], (5)NS州の沖合相殺交付金, III.収入確保インセンティブによる2009年度の政策誘導効果 I.算定方法のモデル化: (1)本則方式と旧制度方式 (1)2004年度交付8州の「旧定式配分」から一部「総額配分」へ (2)2005年度交付8州の「総額配分の(3) 中間方式」: 交付金シェアと(2)財政力方式の平均 (3)2007年度交付7州の「新定式配分07」: 不交付州の最低財政力キャップ (4)2011年度交付6州の「新定式配分09」: 平衡化後財政力の交付州平均キャップ, 2. 5税目統合による制度変化と基礎データの連続性 (1)平衡化対象収入の5税目統合, (2)1人当たり標準税収のパネル分析, 3.天然資源の収入確保インセンティブによる政策誘導効果 (1)SK州の天然資源50%算入によるインセンティブ効果, (2)NL州の沖合協定によるインセンティブ効果 (3)1人当たり財政力の順位に関する政策誘導効果のタイムラグ IV.政策誘導効果のタイムラグと制度の頑健性 1.平衡交付金の移行期間と制度の連続性 2.制度変化と政策誘導効果のタイムラグ 3.天然資源収入のインセンティブ効果と制度の頑健性 [補論I.1] 2004年度「旧定式配分」: 交付金シェア方式と2月推計の保障 [補論I.2] 2005~06年度「総額配分の(3)中間方式」: 交付金シェアと(2)財政力方式の平均 [補論I.3] 2007~08年度「新定式配分07」: キャップ後交付金の選択 [補論I.4] 2009~10年度「新定式配分09」: 「純財政便益」対「財政力キャップ」[補論II.1] 5税目の平衡化対象収入: R表 [補論II.2] 5税目の全国平均税率と標準税収(代表的税制): C表[概要] 「補完的」制度論アプローチは第1に, 連邦・州間財政調整法の条項に着目することによって, 2007年度平衡交付金の改革(新定式配分07)を「制度変化」として確認できるだけでなく, その分析で沖合相殺交付金を対象範囲に加えることを要請する。第2に, 33税目を5税目にする改定は, 各州各税目のパネルデータ分析によって, 5税目への統合であることが確かめられた。第3に, 人口の3割を占めるオンタリオは交付州になったが, サスカチュアンとNL州は, それぞれ天然資源50%算入と沖合相殺交付金で, 2007年度から収入を伸ばし, 08年度に不交付州になった。改革がそれらの州に与えた収入確保のインセンティブ効果は, 2年タイムラグで3年加重平均の1人当たり財政力の順位を変える「政策誘導効果」に反映された。また, 「新定式配分09」では, 交付州になったオンタリオが将来, 不交付州になっても, 自動的に対応できる制度の頑健性も確保された。 [Abstract] Firstly, the amended sections of the federal-provincial fiscal arrangements act of 2007 and 2009 not only make sure of the institutional change of Canadian Equalization program reported by this article, but also require the research on the additional offset payments to Nova Scotia and Newfoundland and Labrador as well as the Equalization payments. Secondly, in the new Formula 2007, the payments are based on a two year lag of the three-year weighted moving average of provincial fiscal capacity which is measured using five tax bases. It was verified by the panel data of ten provinces for three years that the thirty three tax bases used in the previous Formula were just transformed into the five tax bases in the new Formula 2007. Therefore, the structural changes from receiving provinces to non-receiving provinces of Saskatchewan and Newfoundland and Labrador from 2008-09 respectively depend on their revenue raising performance by excluding 50% of the natural resource revenues in determining each province's fiscal capacity and by receiving the additional offset payments. Thirdly, even if Ontario, one of receiving province from 2009-10 changes to non-receiving province in future, the amendment act of 2009 will be able to cope with the structural change by using the fiscal capacity of the lowest non-receiving province in the Formula 2007 as a capping measure, in place of the average post-Equalization fiscal capacity of those receiving provinces in the Formula 2009.