著者
中園 幹生 堤 伸浩
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

湛水条件下でイネ種子を播種すると、胚乳内のデンプンが糖に変換される。さらに解糖系・エタノール発酵系を活性化させてATPなどのエネルギーを得ることにより、イネは発芽することができる。しかし、芽生えの形態は好気条件下でのものとは異なり、子葉鞘と呼ばれる器官だけが伸長する。湛水条件下での子葉鞘の伸長に、解糖系・エタノール発酵系が必要であることが知られている。本研究ではさらに、エタノール発酵の中間産物であるアセトアルデヒドを酢酸に変換するアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)と、酢酸をアセチルCoAに変換するアセチルCoA合成酵素(ACS)の経路も重要であることを明らかにした。これらの経路はイネ発芽時の脂肪酸合成・アミノ酸合成に寄与していることが示唆された。ALDH2とACSをコードする遺伝子は、イネゲノム中にそれぞれ2コピーずつ存在しており、そのうちの1つの遺伝子(ALDH2a, ACS1)の発現は、湛水条件下で発芽させたイネ芽生えの子葉鞘で増大していた。湛水条件下におけるイネの発芽・出芽性と,ALDH/ACSの経路の関係について理解を深めるために、DEX誘導性プロモーターの下流にALDH2a, ACS1 cDNAをアンチセンスの向きにつないだプラスミドを導入した形質転換イネを作出した。現在、T2固定系統を作製中である。本研究期間内に形質転換植物の形質を評価できなかったが、今後、湛水条件下におけるイネの発芽・出芽性を詳細に調査する。本研究により、湛水条件下のイネの発芽・出芽性にエタノール発酵から分岐する新しい代謝経路が車要である可能性を示すことができた。