著者
中坂 信子 貞森 直樹
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.213-221, 2006-09

昭和20年8月,広島・長崎に原爆が投下されて60年余が経過した。被爆者の高齢化が進み,長崎原爆被爆者の平均年齢は74歳に達している。想像を絶する悲惨な被爆体験は,その後,精神的不安(トラウマ)となって,現在においても精神的な悪影響として残っている可能性がある。かかる状況の中で,純心聖母会恵の丘長崎原爆ホームや原爆被爆者特別養護ホームかめだけ等に入所中の128名の協力を得て,原爆による心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder:PTSD)の評価をするために改訂出来事インパクト尺度(Impact of Evant Scale-Revised; IES-R)を用いて,平成16年に直接面接法によるアンケート調査を実施した。その結果,IES-R得点と被爆距離との間(P<0.05)や,IES-R得点と被爆による急性症状の有無との間(P<0.01)に統計的に有意な関連を認めた。一方,IES-R得点と男女差,被爆時年齢,調査時年齢,三親等以内の親族の有無,入所期間,面接回数との間には関連は認められなかった。このことは,爆心地からの被爆距離が近い被爆者や,また被爆による急性症状を認めた人達は,59年を経た時点でもなお被爆によるPTSDを受けていることを示している。