著者
鎌田 七男 大瀧 慈 田代 聡
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.87, pp.247-250, 2012-09-25

広島県,広島市では昭和48年1月に2km以内被爆者に対し(1次),昭和48年11月に2km以遠の直接被爆者に対し(2次),さらに,昭和49年11月に入市被爆者に対し(3次)「被爆者とその家族の調査」を行った.広島大学原爆放射能医学研究所(当時)は広島県・広島市の行なう原子爆弾被爆者実態調査(昭和35年,昭和40年,昭和48年,昭和50年など)の企画,集計,結果報告に協力してきており,昭和48年・49年に行われた「被爆者とその家族の調査」のうち,家族調査とくに子供の数について解析し,被爆2世者数を119,331名と算定した1).一方,広島大学原爆放射能医学研究所(当時)は設立以来,広島県内白血病発生について継続的に研究・報告してきた2-4).今回は一連の研究の中より原爆被爆2世に発生した白血病について報告する.
著者
岩永 正子 Nader Ghotbi 小川 洋二 乗松 奈々 山下 俊一
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.266-270, 2006-09

近年18-Fポジトロン放出放射性同位核種を用いたPET(positoron emission tomography)およびPET/CTが悪性腫瘍などの臨床画像診断分野で急速に普及している。しかし,日本と欧米ではPET(PET/CT)の臨床応用に極めて異なる点がある。欧米ではPETは主として確定診断・ステージング・治療後フォローアップなどの癌診療に適用されているが,日本ではそういった癌診療以外に,無症状の健康人に対する癌検診の適用が20%も占めていることが特徴である。PETガン検診の急速な普及の背景には,PET検診センターと旅行会社がタイアップした「PET検診ツアー」ブーム,「数ミリの極微小のがんが発見でき,これまでの検査より癌の発見率が高い」「被曝線量は2.2mSvと年間に受ける自然被曝線量よりも低く安全」という偏った情報のみがマスメディアで過剰宣伝されていることなどが考えられている。日本では以前から医療用被曝の割合が高いことが知られ,PET/CTによる癌検診の普及により新たな医療被曝の増加が懸念される。PET検査の18-Fから出るγ線のエネルギーは高く(511 KeV)被検者だけでなく介護者・医療スタッフの職業被曝の問題もある。PET(PET/CT)の臨床腫瘍学における検査の妥当性・有効性については欧米から多くの報告があるが,PET(PET/CT)による一般健康人の癌検診(いわゆるマス・スクリーニング)は欧米では行われていないこともあって,その妥当性と放射線被曝について評価した研究は非常に少ない。そこで我々は,既知論文・PETモデルセンター・日本人癌罹患率などのデータをもとに,無症状の一般健康人を対象にしたPET(PET/CT)癌検診の検査の妥当性と放射線被曝線量を評価した。
著者
熊谷 敦史 大津留 晶 SERIK MEIRMANOV 伊東 正博 SAGADAT SAGANDIKOVA DANIYAL MUSSINOV MAIRA ESPENBETOVA
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.363-366, 2006-09

旧ソビエト連邦カザフスタン共和国のセミパラチンスク核実験場では1949年から1989年まで(1965年以前は地上核実験)計470回ともいわれる核実験が行われた。この地域では約160万人を超える人々が今なお生活を営んでいるとされ,健康影響の調査や支援が必要とされている。さらに1991年の旧ソビエト連邦崩壊による社会基盤の瓦解により一般的なこの地域への医療支援の必要性が高まっていた。1997年の国連総会における同地域への支援決議(169号)を皮切りに日本政府も支援に乗り出し,長崎大学も広島大学などと共に2001年からJICA(国際協力機構)の事業として旧ソ連カザフスタン共和国のセミパラチンスク核実験場周辺地域で癌検診をはじめとして細胞診・病理診断指導などの医療協力を行ってきた。甲状腺はその組織の特性から,放射性ヨウ素の取り込みによる内部被曝の危険が高く,放射線被害による発癌の危険性が高い臓器の一つとされている。実際に,甲状腺癌は日本人被爆者において増加を示し,1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故後には周辺地域で特に小児甲状腺癌が急増した。甲状腺乳頭癌(PTC)の成人例において,特異的かつ高頻度(3〜6割)の遺伝子異常として近年BRAF遺伝子点突然変異(BRAF T1799A)が報告され,遠隔転移や放射性ヨウ素内照射療法への抵抗性との相関性などから予後不良群の指標として注目されている。
著者
福永 真人 I Sedliarou N Kryshenko
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.79, pp.159-161, 2004-09

1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故後,その周辺地区(特にベラルーシ共和国ゴメリ州)において,小児甲状腺癌のリスクが高まったことが知られている. 一方,放射線後障害としての甲状腺癌の増加の他にも,住民の間におけるいわゆる「放射線恐怖症」が,間接X線撮影による検診率の低下を引き起こし,これによる肺結核の増加が報告され,放射線に対する正しい知識の啓蒙の重要性が指摘されてきている (1). 事故から17年が経過し,住民の放射線に対する認識の変化,あるいは行政サイドの対応により,増加した肺結核が現在までにどのような動向を示しているかを明らかにすることは,チェルノブイリ周辺地区における包括的な健康影響評価のためにも重要である. 以上を踏まえて,本研究では2003年までにおける同地区の結核検診率,発症率の動向を調査したので報告する.
著者
伊達木 澄人 中富 明子 渡辺 聡
出版者
長崎大学
雑誌
長崎医学会雑誌 (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.39-43, 2014-03

アレルギー性鼻炎に対して、セレスタミンRを長期内服した結果、Cushing症候群と続発性副腎機能不全をきたした11歳女児例を経験した。患児は、セレスタミンR1日2錠(ベタメタゾンとして0.5mg)を少なくとも8か月間毎日内服していた。Rapid ACTH試験にて内因性コルチゾール分泌能は低下していたため、セレスタミンR中止後、生理的維持量のコートリルRを開始した。その後、コートリルRを漸減し、1か月で中止可能であった。セレスタミンRは、強力な抗アレルギー作用を有することから、多科において広範囲に使用されている薬剤である。しかし、本剤がステロイド合剤であるという認識が乏しく、長期服用による副作用が問題となる例が跡を絶たない。安易な長期処方を避け、使用する際には、適切な患者・家族への情報提供と副作用に対する十分な注意・対応が望まれる。
著者
井手 昇太郎 森下 真理子 高村 昇
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.79, pp.294-296, 2004-09

チェルノブイリ原発事故後,放射線ヨードの内部被ばくによると考えられる小児甲状腺癌の増加が,ベラルーシ,ウクライナ,及びロシア連邦において見られたが,その一方でポーランドでは甲状腺癌の増加は見られなかった. これは,ポーランドで事故直後に安定ヨウ素剤を内服させたことによる予防効果と考えられており,被ばく事故の際の安定ヨウ素剤内服の重要性を示すものである. 我が国でも1999年のJCO事故以降,原子力災害対策特別措置法が制定され,実際の放射線災害時の対策の一つとして被ばく直後の安定ヨウ素剤内服が計画されている. 一方で,予防内服の際,誤って過剰に安定ヨウ素剤を摂取した場合の対策も重要である. しかし,ヨウ素過剰内服時の血行動態と甲状腺ホルモンに対する影響についてはあまりデータがなく,その対策については未だ議論が続いている. そこで今回は,比較的大量の安定ヨウ素剤内服時の全身と甲状腺局所の血行動態の変化を,頚動脈脈波・上甲状腺動脈脈波・血圧・脈拍などの指標に加え,造影エコーにより解析・検討した.
著者
松尾 俊和 中越 享 中村 司朗
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.23-27, 2009-06-25
被引用文献数
2

魚骨穿通による肝膿瘍の1例を経験したので報告する。症例は74歳の女性で、右上腹部痛、発熱を主訴に入院となった。入院時胸部CTで肝外側区域から背側に突出するような低濃度腫瘤と線状陰影を認め、魚骨刺入による炎症性肉芽と診断した。Free airはなく魚骨は胃から離れていたため、心不全、脱水の治療を優先し、待機的に手術施行した。術前の造影腹部CTでは、肝外側区域に肝膿瘍を形成していたため、魚骨摘出と肝膿瘍ドレナージ術を施行した。一般的に本症の診断は困難であるが、MDCTの施行により術前の確定診断が比較的容易となった。
著者
一ノ瀬 仁志 木下 裕久 中根 允文 三根 真理子 太田 保之
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.222-225, 2006-09
被引用文献数
1

長崎原爆投下時に爆心地から半径12km以内であって被爆者援護法で指定されていない地域に居住または滞在していた住民(以下,「被爆体験者」とする)は,放射線の推定線量から判断して,身体的な健康に影響は保有していないとされてきた。しかしながら,被爆体験者の被爆体験に起因する精神的・身体的影響が現在においても存在する可能性が否定できないことから,平成12年度に厚生労働省は国立精神神経センターを中核とした研究班を立ち上げ,調査時点で半径12km以内に居住する被爆体験者の精神的・身体的状態に関する疫学調査を行った。この調査によって,被爆体験者は,原爆投下と放射能被害に基づく精神的不安(トラウマ)が原因となって,今日においても精神的・身体的な悪影響を受けていることが確認された。この結果を受けて我々は,現在半径12km以遠に居住する被爆体験者においてトラウマがどのような精神的・身体的な影響を与えているかを分析するための実態調査を行なった。この調査では,平成12年度の国立精神神経センターが行った調査方法を踏襲する形式で行い,国立精神神経センターが得た調査結果との間で比較検討を行うことによって,半径12km以遠に居住する被爆体験者のトラウマが現在の精神的・身体的健康状態にいかなる影響を与えているのかを分析した。
著者
近松 元気 井上 悠介 津留 陸
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.14-18, 2014-03-25

長崎大学では医学部、及び病院敷地内全面禁煙を実施しているにも関わらず、関係者による喫煙、敷地内、及びその周辺ではタバコの吸殻が多く見られ、問題視されている。そこでタバコの吸殻の実態を調査し、敷地内全面禁煙実施に関する評価を行う目的で以下の検討を行った。敷地内、及びその周辺において、タバコの吸殻のサンプリング調査を集中的に行い、そのデータを解析したところ、敷地周辺に非常に多くのタバコの吸殻が見られ、敷地内も合わせて1日平均100本以上の吸殻が回収された。禁煙を敷地内に限定せず、その周辺にも自粛を呼びかけ、医学部、及び病院関係者を中心に、地域として禁煙に取り組んでいくべきだと考える。
著者
川野 徳幸 星 正治 神谷 研二
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.201-205, 2006-09

広島大学原爆放射線医科学研究所(以下,「原医研」と略称)は,1961年の設立以来現在まで,原爆・被ばくの実態解明に欠かせない様々な分野の学術資(試)料を収集してきた。これらの学術資料の収集・管理・解析は,現在の原医研附属国際放射線情報センターが中心に担当してきた(以下,「以下,「原医研センター」と略称)。原医研では,それら貴重な学術資料をデータベース化し,公開するために,広島大学図書館との共同プロジェクトを立ち上げ,「原爆・被ばく関連資料データベース」を作成した。本データベースで電子化した学術資料は,次の資料群である。(1)原爆・被ばくに関連する新聞切抜きを記事 (2)米国陸軍病理学研究所(AFIP)から返還された医学的写真資料 (3)原爆・被ばく関連の図書資料の書誌事項 (4)原爆・被ばく物理試料データ (5)米国及び旧ソ連核実験実施記録データ 本稿では,今般データベース化した各学術試料の概略,データベースの利用方法,加えて,データベース公開の意義について報告する。
著者
赤間 史隆 石川 啓 岩崎 啓介
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.28-31, 2009-06-25
被引用文献数
1

症例は53歳女性。平成16年7月12日、子宮体癌IIIa期の診断で準広汎子宮全摘術を施行後、TJ療法が2コース行われていた。平成17年7月7日、左下腹部膨隆を訴えて婦人科受診、子宮体癌再発の診断でTJ療法を2コース追加。その後、タール便が出現。胃内視鏡検査にて、巨大な潰瘍性病変を認め、外科紹介となった。手術では胃の腫瘍は横行結腸間膜を巻き込んでおり、横行結腸合併切除を行った。腫瘍は深い潰瘍を形成し、壁外性に増生しており、中心部に広範な壊死を伴っていた。病理所見では腫瘍は粘膜部から筋層、漿膜下に浸潤しており、cytoker-atin(AW1/3)及びCD34陽性で、ER、PgRは陰性を示し、epitheloid typeのsarcomaが疑われたが、子宮腫瘍でもstromal sarcomaの存在が疑われる部分を認め、子宮体癌からの転移と診断した。子宮体癌からの転移性胃腫瘍は、我々が検索した限りでは報告が無く、非常に稀と考えられるため、報告する。
著者
中坂 信子 貞森 直樹
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.213-221, 2006-09

昭和20年8月,広島・長崎に原爆が投下されて60年余が経過した。被爆者の高齢化が進み,長崎原爆被爆者の平均年齢は74歳に達している。想像を絶する悲惨な被爆体験は,その後,精神的不安(トラウマ)となって,現在においても精神的な悪影響として残っている可能性がある。かかる状況の中で,純心聖母会恵の丘長崎原爆ホームや原爆被爆者特別養護ホームかめだけ等に入所中の128名の協力を得て,原爆による心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder:PTSD)の評価をするために改訂出来事インパクト尺度(Impact of Evant Scale-Revised; IES-R)を用いて,平成16年に直接面接法によるアンケート調査を実施した。その結果,IES-R得点と被爆距離との間(P<0.05)や,IES-R得点と被爆による急性症状の有無との間(P<0.01)に統計的に有意な関連を認めた。一方,IES-R得点と男女差,被爆時年齢,調査時年齢,三親等以内の親族の有無,入所期間,面接回数との間には関連は認められなかった。このことは,爆心地からの被爆距離が近い被爆者や,また被爆による急性症状を認めた人達は,59年を経た時点でもなお被爆によるPTSDを受けていることを示している。
著者
領家 由希 森田 直子 中島 正洋
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.250-252, 2006-09

1945年8月9日,長崎にプルトニウム型原子爆弾が投下され多くの犠牲者が出た。原爆の放射線が人体に及ぼす影響を示すものとしてDS86やDS02という線量推定方式があるが,放射能に汚染された食料を摂取することなどで生じる人体放射能の影響については現在でも厳密な評価が難しいとされている。目的は長崎原爆被爆者の米国返還試料であるホルマリン固定臓器とパラフィンブロックを用いて,原爆放射線が人体に及ぼす内部被ばくの影響を病理学的に検討することであり,今回はその一環として,急性被爆症例における内部放射能の検出法について検討した。米国返還資料は被爆直後,アメリカと日本の科学者によって被爆者の病理標本や記録などが収集されたが,米軍によってアメリカに送られ日本にはほとんどのこらなかった。しかし,1973年,約2000点の資料が返還され,現在,長崎大学原研2号館に保存されている。その中に,旧大村海軍病院の剖検例5例のホルマリン固定臓器とプロトコールを見つけることができた。
著者
高村 昇
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.87, pp.161-164, 2012-09-25

1986年4月26日未明,ウクライナの首都キエフから北へ130kmの地点にあるチェルノブイリ原子力発電所4号炉が爆発炎上し,人類史上最悪の放射線災害が発生した.当時の東西冷戦構造のもと,正確な情報は世界へ発信されず,目に見えない放射線に対する恐怖と相まって,世界レベルでのパニックが引き起こされた.事故に対して本格的な国際協力が開始されたのは,ゴルバチョフ大統領のペレストロイカ(経済改革)やグラスノスチ(情報公開)政策がソ連解体へと歩を進めていた1990年以降であった.チェルノブイリ周辺地区住民,ならびに発電所の作業者における健康影響についての科学的知見は,今後の福島県民の健康をどのようにして見守っていくかを考えた際,重要なものとなる.本稿ではチェルノブイリ事故による健康影響を概説しながら,チェルノブイリにおける住民検診とその問題点について考察する.