著者
竹下 徹 平島 崇男 植田 勇人 岡本 あゆみ 木下 周祐 辛 ウォンジ 幸田 龍星 安藤 瑞帆 中山 貴仁
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.124, no.7, pp.491-515, 2018-07-15 (Released:2018-08-18)
参考文献数
79
被引用文献数
2 2

神居古潭変成岩は古くから典型的な低温高圧型の変成岩として良く知られ,数多くの研究が行われて来た.また,北海道白亜系蝦夷層群は,日本列島の中では極めて大規模な前弧海盆堆積物であり,空知層群(空知オフィオライト)を挟んで神居古潭変成岩の構造的上位に分布している.この神居古潭変成岩-空知オフィオライト-蝦夷前弧海盆堆積物は太平洋を挟んで, 北米西岸白亜紀のフランシスカン・コンプレックス-コーストレンジ・オフィオライト-グレートバレー・シーケンスにも対比出来る.本巡検は,かつて北海道の白亜紀の海溝深部から浅海域に位置していたと推察される 地質体を,1泊2日の短期間で巡ることが出来るよう企画された.神居古潭変成岩についての研究は2000年以降,暫く途絶えていたが,新たな視点での研究が再開された.特に,本巡検では2つのテーマに焦点を当てる. 一つは神居古潭変成岩を構成するメンバーの中で最も初期に形成されたと考えられる蛇紋岩メランジュ中の角閃岩・青色片岩テクトニックブロック で,本岩石を構成する変成鉱物(ざくろ石, 角閃石, 緑簾石など)の組成累帯構造に基づき,テクトニックブロックが顕著な冷却の履歴を被ったことが推察されることである.今日,この冷却の履歴は世界の沈み込み帯起源の青色片岩やエクロジャイトから報告されており,海洋プレート沈み込み開始初期から定常状態の沈み込みに至る冷却を示すと考えられるようになった.もう一つは,神居古潭変成岩上昇時のおそらく前弧域における著しい高温流体活動である.最近,いくつかの試料について炭質物ラマン温度計が適用されたほか,緑色黒雲母の産状が明らかとなるなど,変成岩上昇時に青色片岩を緑色片岩に置き換えてしまうほどの高温流体移動による接触変成作用が生じていたことが明らかになりつつある.この事実は,今後,前弧域テクトニクスを解明していく上で大きな示唆を与える.