著者
石川 敬史 中岡 貴裕
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
no.51, pp.159-171, 2021-03-28

埼玉県立浦和図書館は1972年1 月18日に一日図書館「むさしの号」の巡回を開始した。大型バスを改造して約4,500冊積載の書架を装備し,大規模団地を対象に2 時間から5 時間半に及んだ活動は,新聞などにおいて大きく報道された。本研究では,一日図書館の成立と最盛期の活動内容を実証的に明らかにするため,当時,一日図書館の活動に関わった元図書館員へのインタビュー記録に基づきながら,関係資料も用いて分析した。その結果,一日図書館の巡回の背景には,団地建設や人口増による図書館利用への要求や,市町村の図書館設置への機運の醸成があった。同時に,一日図書館の成立と活動を遡ると,巡回先を調整し,住民の中へ入り込み巡回を重ねる過程において,一日図書館を媒介としながら人と人との関係性を積み重ね,個々の地域との結びつきを深めていたことが明らかになった。1970年代の一日図書館は,単に大規模団地へ大量の本を運んでいたのではなく,埼玉県立図書館を核とする「図書館」ネットワークを運んでいた。