著者
赤間 恵都子
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.277-285, 2018-03-24

受験勉強として古典文学を扱い、古語文法に悩まされてきた学生たちは、大学の授業でも古典文学は難しいという固定観念を持っている。しかし、授業で実施した古典文学に対する意識調査の結果、古典を作品として学びその内容を知った学生たちの大方が面白いと感じて興味を持つことが分かった。筆者は学生たちの関心を古典文学に引き寄せる方法として、漫画やアニメーションを教材に使用しているが、さらに近年はアクティブラーニング的な授業方法も試みている。本稿は後者の授業について報告するものである。一つは、『源氏物語』がテーマのゼミ形式の授業で実施した「源氏双六」「宇治十帖双六」制作ワークである。2015年度には光源氏の一生をたどる双六盤を、2016年度には宇治十帖の薫の動向をたどる双六盤を作成した。楽しい作業の中に、物語全体の流れと出来事の意味を復習するという重要な課題が含まれており、意義あるワークとなった。もう一つは、『古今和歌集』を扱った授業の最終課題で、和歌に詠われた世界観を学生たちが読み取り、PC画像として表現するワークである。出来上がったパワーポイント画面には、学生たちのオリジナリティーあふれる世界が表現された。意識調査で古典が好きと答えた学生も、あまり好きでないと答えた学生も、将来的に古典の授業は必要だと思い、その意義について様々な回答を記述してくれた。古典文学を未来につなげるために、現段階では、まずは学生たちに興味を持ってもらえる授業展開方法を今後も工夫し続けていきたい。
著者
石川 敬史 中岡 貴裕
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
no.51, pp.159-171, 2021-03-28

埼玉県立浦和図書館は1972年1 月18日に一日図書館「むさしの号」の巡回を開始した。大型バスを改造して約4,500冊積載の書架を装備し,大規模団地を対象に2 時間から5 時間半に及んだ活動は,新聞などにおいて大きく報道された。本研究では,一日図書館の成立と最盛期の活動内容を実証的に明らかにするため,当時,一日図書館の活動に関わった元図書館員へのインタビュー記録に基づきながら,関係資料も用いて分析した。その結果,一日図書館の巡回の背景には,団地建設や人口増による図書館利用への要求や,市町村の図書館設置への機運の醸成があった。同時に,一日図書館の成立と活動を遡ると,巡回先を調整し,住民の中へ入り込み巡回を重ねる過程において,一日図書館を媒介としながら人と人との関係性を積み重ね,個々の地域との結びつきを深めていたことが明らかになった。1970年代の一日図書館は,単に大規模団地へ大量の本を運んでいたのではなく,埼玉県立図書館を核とする「図書館」ネットワークを運んでいた。
著者
名倉 秀子
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
no.51, pp.71-79, 2021-03-28

鶏卵は,奈良・平安時代に食べられた記録は見られず,時を告げる鶏の卵を食べることは罰があたるとされ,畏敬の念があったといわれている。安土桃山時代には,ポルトガルからの菓子に鶏卵を使ったカステラなどの料理がみられるが,鶏卵を積極的に料理にもちいていたとは考えられない。また,江戸時代中期以降には豆腐百珍をはじめに,鯛百珍,玉子百珍,甘藷百珍など100種類の料理を材料別に紹介する料理本が刊行された。ここでは,萬寳料理秘密箱にある玉子百珍の理103品について,調理学的,食文化的な視点から分析し,食生活や卵料理の嗜好性を把握することを目的とした。 卵料理の材料は,鶏卵が97%を占め,全卵使用が全料理の84%となり,貴重な鶏卵を大切に扱う調理法の記載があった。調理法は殻付きゆで卵が21%出現し,これは「煎貫」という調理法であることが明らかになった。ゆで卵は,卵白を染色した料理や,花型に変形させ「花卵」などのように,見栄えの良い料理の調理法が多く掲載され,器のなかの料理について視覚を重視していた。また,卵白は,泡立て後に蒸し,汁の具や平皿の一品とする調理法が紹介され,フワフワなどの食感も大切にされていることが散見された。調味料は,醤油や塩,白砂糖の他,煎酒を利用する料理もあり,旨味や酸味の味のバランスを考えた料理も出現していた。卵料理には,砂糖で調味するカステラや冷たい羊羹などの菓子職人の扱う珍しい菓子類も記され,レシピ本と同時に料理の読み物として掲載されていた。また,卵に生薬を加えた料理は効能の紹介があり,料理が健康維持のために利用されていた。視覚,味覚,嗅覚,触覚を楽しむ卵料理から,食生活文化の広がりを把握できた。
著者
赤間 恵都子
出版者
十文字学園女子大学
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.192-181, 2015

四季の風景を平等に取り上げる『枕草子』は,春秋に重きを置く平安文学の中で特異な作品である。四季の中でも文学的な風物の乏しい冬に,唯一,注目される雪は,清少納言が特に好んで描いた素材であった。本稿は,『枕草子』の雪景色を取り上げ,作品内で雪がどのような場面に描かれているのかを考察し,雪景色が作品生成の源となる風景として,『枕草子』執筆に大きな役割を担っていたことを論じる。まず,初出仕した清少納言が宮廷で出会う主人定子や上流貴族たちの印象深い姿が,雪景色と共に描かれる。そして,宮仕えに慣れた清少納言は,香炉峰の雪の段で,定子後宮を代表する女房として称賛される。定子後宮は公的な場で女性が漢詩漢文を自由に口にできる革新的な文化を持っており,清少納言はその気風にたちまち適応した。そんな定子後宮のモデルとして『枕草子』に引かれる村上朝の風雅な逸話にも,月雪花の漢句が引用されていた。中関白家が没落し,定子が内裏に入れず大内裏の職御曹司に滞在していた時,職御曹司の庭で雪山作りが行われた。雪山完成直後,女房たちの間で雪山がいつ消えるかの賭けが始まり,その賭けの途中で定子の内裏参入が実現する。この時の定子の内裏滞在は第一皇子誕生に結びつくが,政治情勢は彰子立后を企てる道長側に傾いていた。そこで,『枕草子』に表立って記述することが憚られた一条天皇と定子の会合は,雪山の賭けを利用して書き留められたと考えられる。最後に,『枕草子』が決して語らない定子葬送の日の雪景色がある。それは他のどの場面よりも深く降り積もった雪景色であり,定子を喪った作者を作品執筆へと突き動かした風景だったと考える。以上,初出仕から定子崩御に至る清少納言の宮仕え生活の折々で,雪が重要な場面に登場していたことを確認する時,『枕草子』は雪景色から生まれた作品だったと言えるのである。
著者
二宮 紀子
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
no.50, pp.123-136, 2020-03-28

今年度4 月にМ L 教室が設置されたことを機に、幼児教育学科のピアノ演奏に関わる科目、特に「音楽基礎Ⅱ」( 1 年次後期開講)の準備講座を自主ゼミという形で開講した。また現行では子どもの歌の伴奏法の内容を扱っている「保育内容の指導法(音楽表現)」( 3 年次前・後期開講)の授業をМ L 教室で行った。本稿はこの2 つの実践の報告である。М L 教室では学生一人に1 台の電子ピアノが割り当てられるため、楽譜の読み方や子どもの歌の伴奏を考える際に必要となってくる音楽理論を、実際に弾いて音として確かめながら学ぶことができる。その利点を生かしながら、受講者全員でまずピアノの課題の楽譜を、あるいは子どもの歌を全員でドレミで歌い、拍に合わせてリズムを叩くという準備を行ってから弾くという学習を行った結果、読譜力の育成、音楽理論理解、ピアノの演奏技術習得に効果が認められたことを、講座終了後の学生の姿や授業終了後に行った学生アンケートの分析から見ることができた。日本の音楽教育で読譜や理論の学びを難しいものにしている原因の一つがドレミ唱法の混乱である。ハニホヘトイロハという音名を定めておきながら、固定ド唱法と称してドレミを音名としても使い、階名であるドレミとの混乱を招いた。ピアノを弾くというだけであれば、五線による楽譜もピアノの鍵盤も固定ドの原則で作られているので、固定ドだけを学べばよいと考える教員もいる。しかし、音楽のしくみ、音階や和音の機能などは移動ド(階名)の考え方に基づいていること、何より保育者になる学生達には子どもの声の高さに合わせて自在に高さを変えて歌える力を身につけてもらいたいことから、階名としてのドレミ唱法を理解してほしいと考えている。学生が、混乱を招きかねない2 種類のドレミ唱法を経験しながら奏法と理論をどのように学んだか、М L 教室ならではの学習の流れと工夫点を振り返り今後の授業実践に反映させたい。
著者
山口 由美 山口 圭
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
no.50, pp.99-108, 2020-03-28

本稿では、公的介護保険制度が20年を経過するにあたって、疲弊する援助者の対処行動として、利用者を十把一絡げにしてサービスを提供する傾向について整理するとともに、利用者の個別性を尊重した支援を再び取り戻すために、利用者と援助者との「なじみの関係」を形成する必要があることを提起する。さらに、「なじみの関係」を形成する場としての「認知症カフェ」に着目し、「認知症カフェ」のもつ可能性と課題について検討する。
著者
二瓶 さやか 増子 正
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.167-176, 2018-03-24

超高齢社会を迎えるわが国において、介護保険制度が「地域包括ケアシステム」の実現を目指すことを目的とした法改正がなされる等、2025年の地域創成に向けて地域包括ケアシステムの推進・構築が、重要な課題となっている。本研究では、地域包括ケアシステムについて、関連する法律や地域包括ケア研究会の報告書から定義の変遷をまとめ概念整理を行い、地域包括ケアシステム推進にむけた課題を考察した。また、地域包括ケアシステムの構築の為には、現在多くの地域で取り組まれている地域福祉活動の更なる推進と活動を支える多様な担い手の確保が重要であり、共同募金は、地域福祉活動を支える重要な役割を担う一つとして示唆されていることから、共同募金の概要と実際の助成配分や使途について概観した。結果、共同募金を資源とした地域福祉活動の推進は、単に地域における課題を解決するだけでなく、地域住民に地域が抱える福祉課題の意識化や顕在化へと発展することが期待され、地域包括ケアシステム推進と共に、共同募金のあり方も転換が図られる必要があると考えられた。さらに、共同募金は、助成者が恩恵を受けるに留まらず、地域社会に対する住民の連帯や、相互扶助の意識を「主体化」させる役割も担うことも示唆された。
著者
赤間 恵都子
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.277-285, 2018-03-24

受験勉強として古典文学を扱い、古語文法に悩まされてきた学生たちは、大学の授業でも古典文学は難しいという固定観念を持っている。しかし、授業で実施した古典文学に対する意識調査の結果、古典を作品として学びその内容を知った学生たちの大方が面白いと感じて興味を持つことが分かった。筆者は学生たちの関心を古典文学に引き寄せる方法として、漫画やアニメーションを教材に使用しているが、さらに近年はアクティブラーニング的な授業方法も試みている。本稿は後者の授業について報告するものである。一つは、『源氏物語』がテーマのゼミ形式の授業で実施した「源氏双六」「宇治十帖双六」制作ワークである。2015年度には光源氏の一生をたどる双六盤を、2016年度には宇治十帖の薫の動向をたどる双六盤を作成した。楽しい作業の中に、物語全体の流れと出来事の意味を復習するという重要な課題が含まれており、意義あるワークとなった。もう一つは、『古今和歌集』を扱った授業の最終課題で、和歌に詠われた世界観を学生たちが読み取り、PC画像として表現するワークである。出来上がったパワーポイント画面には、学生たちのオリジナリティーあふれる世界が表現された。意識調査で古典が好きと答えた学生も、あまり好きでないと答えた学生も、将来的に古典の授業は必要だと思い、その意義について様々な回答を記述してくれた。古典文学を未来につなげるために、現段階では、まずは学生たちに興味を持ってもらえる授業展開方法を今後も工夫し続けていきたい。
著者
加藤 暁子
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.149-161, 2019-02-28

昨今のグローバル社会の中で、日本のエンターテイメント業界も世界に通用する質が求められてきている。その中で世界的にも類を見ない女性だけの劇団として広く知られる宝塚歌劇団は2019年で創設105周年を迎える。異彩を放つその劇団の歴史などが記された書物は多く存在するものの、特色ある歌劇団についてこれまで公演提供者側からの視点で特長を記している論文記述は多くない。そこで本稿では公演提供者側の角度から歌劇団の特長を整理・探求してみることとした。具体的にはほぼ毎回のように鑑賞券を完売させる公演を創り出すマネジメントに注目した。そのマネジメント要素を掘り下げるにあたっては、公演もひとつのプロジェクトとして捉えることが可能と考え、近年注目が集まるプロジェクトマネジメントの視点で探求した。個別マネジメント群については国際規格策定機関である国際標準化機構(ISO)が2012年に発行したプロジェクトマネジメントに関する国際規格ISO21500の”10の知識エリア”のうち8つの知識エリアを利用した。その結果、ステークホルダーとしての「コアファン」やスコープとしての「全て歌劇団専属」など、本稿の目的であるプロジェクトマネジメントで押えるべき重要なポイントかつ歌劇団ユニークで特長的な要素を8項目ほど表出化することが出来たものと考える。
著者
大宮 明子
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.119-131, 2021-03-28

カナダは2 言語教育が進んでおり、その取り組みは、2020年度から小学校5 年生から英語教科化が始まった日本における英語教育に対して一定の示唆を与えると思われる。10州と3 つの準州から成るカナダは連邦レベルでは英語とフランス語が公用語とされているが、2 つの州と1 つの準州及び首都オタワ付近以外の地域では、カナダ国民は日常生活でフランス語を使う機会は非常に少ない。学齢期においては、公用語がフランス語であるケベック州では英語が、公用語が英語であるその他の州ではフランス語が、必修科目となっている。本稿は現在のカナダの英語圏において、第二言語としての英語及びフランス語の学びがどのようになされているのか、それらの学びにおいてどのような課題があるのかを述べた。 まず第二言語としての英語の学びにおいては、母語または家庭で話される言語が英語でない子どもたちが対象となるが、英語圏のオンタリオ州教育省は指針の中で、学校や家庭において母語をサポートし続けることが英語の学びに繋がることを述べている。 また第二言語としてのフランス語の学びにおいては、コアフレンチ及びイマージョン教育プログラムが設定され、子どもや保護者の希望によってプログラムを選択することができる。イマージョン教育の開始年齢やどの科目をフランス語で学ぶかについて、同一州内でも地区により異なる。その具体例をいくつか挙げるとともに、バイリンガルになるために有効とされるイマージョンプログラムに参加しても、継続し続けることは難しいという現状を示した。また、学齢期に英仏のバイリンガルであっても、卒業後もバイリンガルであり続けることの困難さも明らかになった。 このようなカナダでの二言語教育の取り組みから、日本における英語教育に対してどのような示唆を得ることができるか、について論じた。
著者
加藤 暁子
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
no.49, pp.149-161, 2019-02-28

昨今のグローバル社会の中で、日本のエンターテイメント業界も世界に通用する質が求められてきている。その中で世界的にも類を見ない女性だけの劇団として広く知られる宝塚歌劇団は2019年で創設105周年を迎える。異彩を放つその劇団の歴史などが記された書物は多く存在するものの、特色ある歌劇団についてこれまで公演提供者側からの視点で特長を記している論文記述は多くない。そこで本稿では公演提供者側の角度から歌劇団の特長を整理・探求してみることとした。具体的にはほぼ毎回のように鑑賞券を完売させる公演を創り出すマネジメントに注目した。そのマネジメント要素を掘り下げるにあたっては、公演もひとつのプロジェクトとして捉えることが可能と考え、近年注目が集まるプロジェクトマネジメントの視点で探求した。個別マネジメント群については国際規格策定機関である国際標準化機構(ISO)が2012年に発行したプロジェクトマネジメントに関する国際規格ISO21500の"10の知識エリア"のうち8つの知識エリアを利用した。その結果、ステークホルダーとしての「コアファン」やスコープとしての「全て歌劇団専属」など、本稿の目的であるプロジェクトマネジメントで押えるべき重要なポイントかつ歌劇団ユニークで特長的な要素を8項目ほど表出化することが出来たものと考える。
著者
長田 瑞恵
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
no.51, pp.143-157, 2021-03-28

自分の呼称(以下「自称詞」と呼ぶ)は自我の発達を表すものの一つと考えられる (西川,2003)。話し手が使用する自称詞の獲得や変化が相互作用者に影響を与え,それが翻って話し手への聞き手の行動に影響を与えるという双方向的関係が考えられ(e.g., 長田,2010,2013),社会の中で生活する子ども達という観点からも,自称詞の獲得や発達はより詳細な検討が必要である。そこで本研究では,自称詞の獲得及び使い分けの縦断的発達の実態について,幼児期から中学生までを対象に,自我の発達との関連という観点から検討した。その結果,以下の点が明らかとなった。第1 に,幼児期3 年間は三人称を使って自分を呼び表す子どもが圧倒的に多く,その後その割合が減少していくが,中学校になっても一定割合存在し続けることが示された。第2 に,一般的自称詞の使用については,幼児期に顕著に使用者が増えた後,小学校低学年では目立った変化がないが,小学校高学年で再度使用者の増加傾向が示唆され,中学校になるとほぼ全ての子どもが一般的自称詞を使用することが示された。第3 に,自分の呼称を場面や相手によって使い分ける人数は幼児期でのみ違いが見られ,年長児クラスが年中児クラス・年少児クラスのいずれよりも人数が多いことが示された。第4 に,自称詞の獲得と自我の発達との間に関係があることが示されたが,発達段階によって両者の関連の仕方や程度が異なっていた。以上の結果は,これまで縦断的及び広範囲の年齢に亘って検討されることがなかった自称詞の獲得を明らかにしている点,自称詞の獲得と自我の発達との関連性を示した点で意義があると考える。今後の課題として,自称詞の獲得や使い分けの変化と心の理解の発達との関係の検討が挙げられる。
著者
石川 敬史
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.187-201, 2018-03-24

移動図書館とは、単に図書を運ぶ自動車ではなく、地域に「図書館」が「移動」する活動である。「館(やかた)」の多様な蔵書や図書館活動のうち、何を選択して運ぶかが重要である。しかし、日本の移動図書館の台数は、東日本大震災以降もほぼ横ばいが続き、豊かな移動図書館活動が確実に広がっているとはいえず、移動図書館担当者が集う場も十分ではない。これからの移動図書館活動の可能性を拓くためにも、まずは現在の移動図書館活動の傾向や特徴や課題を明らかにする必要がある。そこで本研究では、戦後期から行われた複数の移動図書館実態調査を踏まえながら、埼玉県内の公立図書館(1県,63市町村)を対象に、移動図書館活動の実態を調査した。方法は質問紙調査とし、①廃止理由、②積載資料、③巡回方法・ステーション数、④業務内容・人員、⑤今後の展望等に関する設問に回答いただいた。こうした回答と、国内における過去の実態調査の結果とを比較し、今後の移動図書館活動の課題と展望について、①図書館資料の「移動」へ、②図書館員の「移動」へ、③図書館の「移動」への3点の視角から考察した。
著者
狩野 浩二
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = 十文字学園女子大学紀要 (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
no.51, pp.189-194, 2021-03-28

斎藤喜博は、1981年に急逝した。そのため、大量に残された資料群の行方は、全く宙に浮いたままである。近年、教授学研究の会の尽力により、短歌関係の資料群は、群馬県立土屋文明記念文学館に所蔵されることとなった。しかしながら、教育実践関係の資料群は、相変わらず、そのままである。教授学研究の会では、斎藤喜博の遺族との交渉により、その資料群の保全、整理を目指してきた。しかしながら、さまざまな事情が複雑に絡み合い、その取り組みは困難を極めている。今回、その交渉の過程において、斎藤喜博の遺族から、資料群の一覧がもたらされた。筆者は、その一覧の写しを入手した。そこで、今回は、その一覧の全貌を明らかにするべく、一覧のデータ化を行ったところである。その概要を紹介する。
著者
ブイ ティ ゴク ハー 端田 寛子 倉若 美咲樹 舘花 春佳 有田 安那 佐々木 菜穂 志村 二三夫 山崎 優子
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.85-97, 2018-03-31

【目的】植物の二次代謝産物を用いるハーブサプリメント(HS)の利用に伴う健康被害例は少なくない.特に医薬品との相互作用に関わる薬物代謝酵素cytochrome P450(CYP)の関与が指摘されている.そこで,HSの安全性確保には,適切なリスク評価が必要であると考え,これまで複数のHSについて食品添加物の安全性評価の手法に準じた肝CYPへの作用を指標とした製品対象動物試験を実施してきた.本研究では,アマチャヅル(学名 Gynostemma pentaphyllum :英名 Sweet tea vine (STV), Jiaogulan)製品を対象とした.STVは,その成分ダンマラン系サポニンに健康効果が示唆され,ベトナム等で人気が高い.食経験は比較的豊富であり,近年ベトナム人を対象とした無作為化比較試験により,耐糖能効果が示され注目されている.しかしながら,医薬品等との相互作用は不明である.そこで,製品の安全性を検討した.【方法】米国A製品とベトナムブランドB製品は純水に懸濁し,一日推奨目安量の100倍量をSD系雄ラット(約200g)に8日間反復胃内投与した.系統差の検討ではGK(Ⅱ型糖尿病自然発症モデル)ラットおよびWistar系ラットを用いた.肝CYP分子種の遺伝子発現は,酵素活性,タンパク質,mRNAレベルで検討した.【結果】2種のSTV製品投与による肝臓重量への有意な影響はなく,共通してalkoxyresorufin O -dealkylase活性が上昇していたが,mRNA発現はCYP1A2が軽度に上昇した.これはWistar系,GKラットでも同結果であった.なお,CYP1A1 の発現に関しては,製品差と系統差がみられた.【結論】STV製品は品質等により,より強いCYP1A誘導作用を持つ可能性がある.本法のような試験を事業者が実施することは安全性確保に有用である.
著者
星野 祐子
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
no.47, pp.91-104, 2017-03-24

近代日本における外来語の受容と定着過程をみてみると、明治期は、文明開化をきっかけに西洋語由来の外来語が、日本語の語彙体系に大量に組み込まれた時期としてみなすことができる。続く大正期は、外来語のカタカナ表記が徐々に定着し、表記の標準化が図られた時期として、そして、昭和初期は、大正期に大衆化した外来語が徐々に整理され、定着していく途上の時期として捉えることができる。さて、外来語の流入は、新しい文化の流入と等しいわけだが、新しい文化として、庶民に最も身近であったものは、おそらく食文化ではないだろうか。そこで、本研究では、グルメ雑誌の先駆けである『月刊食道楽』を資料に、明治末期、昭和初期における外来語の使用実態とその機能を分析する。庶民生活の中で、「食」にまつわる外来語はどのように表現されたのだろうか。 明治期『食道楽』と昭和期『食道楽』をそれぞれ比較したところ、明治期『食道楽』は、欧米の食文化を伝えるために、言わば文脈上必須の語として外来語が用いられていたことが明らかになった。そのため、読み手への工夫として、ルビや付記の活用がみられた。ただし、日本語文における外来語の取り入れ方については、パターンがあるわけではなく、形式に原語の名残がみられることも多かった。和語と外来語の結合についても、現代から言えば違和感のあるものも多く、廃れていった結合パターンも散見された。また、外来語を使用することでの文体面での効果としては、スタイリッシュな響きの演出、カタカナ表記の使用による漢字・ひらがなとの差別化などが挙げられる。そして、昭和期『食道楽』では、外来語の使用がより一層戦略的になった。外来語使用に、洗練された現代的な印象を求めるのは明治期と相違ないが、文脈の助けを受け、皮肉や滑稽さの伝達に外来語が効果的に使われるようになったのである。この点に明治期と異なる外来語の使いこなしを認めることができる。
著者
向後 朋美
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.299-313, 2018-03-24

本稿では、ことばへの気づきが国語教育と英語教育の連携の基盤となるべきであるという認識のもと、平成29年度3月告示の小・中学校学習指導要領(国語科・外国語科)と小学校の国語科教科書のことばに関する項目を言語学・英語学の観点も交えて考察し、ことばへの気づきを育成するためには、教科書のことばに関する言語材料を表面的になぞるだけでは不十分であることを指摘する。また、「ことばへの気づきワークショップ」の取り組みを紹介し、言語学・英語学で用いられている概念等を用いて教科書の言語材料を再構築したり、補足したりすることで、国語の教科書を利用しながらことばへの気づきを育成することは可能であることを示唆する。
著者
設楽 優子 向後 朋美
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.179-190, 2017-03-24

本稿は、設楽・向後(2015)の2015年4 月の新入生の英語習熟度報告と同年12月の結果を比較する。学科間の違いと習熟度別比率は概ね12月にも保存されたが、英語Ⅰ以外に学内外のプログラムに参加しなかった平均的な学生の習熟度は12月には有意に低下した。CASEC 内の4 つのセクションの得点比率には、学科によって多少特徴的な変化があったものと考えられる。2008年以来全入学者の習熟状況は毎年急激には変化しないので、この習熟度状況を来年度のクラス編成や教科書選定に活かすべきである。CASEC のような精度の高いツールはこれからも必要であり、大学として再び採用されることを希望したい。
著者
風間 文明 山下 倫実
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.15-24, 2017-03-24

本研究の目的は、就職活動を目前に控えた女子大学生について、自己効力感と身近なソーシャルサポート源が進路決定の確信度、柔軟性にどのような影響を及ぼしているかを検討することである。就職活動前の女子大学3 年生90名を対象に質問紙調査を実施した。主な結果は以下の通りである。( 1 )自己効力感は進路決定の確信度を高めるが、柔軟性には影響を及ぼさない。( 2 )教員の情緒的サポートは進路決定の確信度を高めるものの柔軟性を低下させる。一方、就職課職員による情緒的サポートは確信度を低下させるものの柔軟性を高める。教員の道具的サポートも確信度を高める。( 3 )社会人の情緒的サポートは確信度を高め、親しい異性の道具的サポートは柔軟性を低下させる。結果から、大学による女子大学生の就職支援として教員と就職課を両輪とする情緒的サポート体制の有効性が示唆された。