著者
中島 学
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.30-45, 2019-10-20 (Released:2022-04-26)

本研究は,少年院における改善更生・社会復帰支援等の処遇を「少年矯正」と位置づけた上で,今日的な課題を明らかにし,その対応と今後の処遇理念について大きく三つの段階により検討を行なった.その第一が,近年の法改正等に伴い成人矯正にも浸透してきている「矯正モデル」の構造とそこに内在する立ち直りを阻害する課題を明らかにした.第二に,少年矯正の再構築として,家族療法等で展開されてきている「物語論」に準拠し,自己同一性の獲得(人格的自己同一性)とその語り直しにより形成される自己同一性(物語的自己同一性)に着目することにより,「矯正モデル」の課題に対応しえる「立ち直りの自己物語」モデルの可能性を検討した.その上で,成長発達途上にある少年に対して,その「最善の利益」となりえる施設内処遇の新たな処遇理念として,対話と関係性という相互主体性が形成される場(共生)と,そのような相互主体性が支援者たる職員の成長を促す(共育)場としての「共生・共育」の可能性の検討を通し,「少年矯正」の再構築を行なった.